2018年11月20日

120字の映画館No.09~ヒッチコックその3 「裏窓」

 原題:Rear Window
 監督:アルフレッド・ヒッチコック 製作:アメリカ 1954年
 出演:ジェームズ・ステュアート、グレース・ケリー
 原作:コーネル・ウールリッチ

骨折で自宅療養する男の気晴らしは、向かいのアパートで繰り広げられる人間模様の覗き見。誰かを待ち侘びる娘、新婚ほやほやの夫婦、勤勉なピアニスト、孤独なオールドミス、そして・・・妻を切断した殺人鬼!? 好奇心旺盛な恋人が、彼の手足となって究明に乗り出すが・・・

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 原作はウールリッチの短篇。ヒッチコックは、これを骨格として、彼の体格ほどの肉付けをほどこし、2時間近い劇場映画に仕立て上げました。
 その肉付けとは―
 名も知れぬアパートの住人たちの生活を、スケッチ風に、しかし丹念に描いたことです。
 骨折した片脚をギプスで固定された主人公のカメラマン(ジェームズ・ステュアート)は、双眼鏡や望遠レンズを窓の外に向けます。中庭を挟んだ向かい側の、アパートの窓ひとつひとつを舞台に、滑稽、孤独、歓喜、倦怠などをテーマにした無言劇が上演されているかのようです。
 そのミニ劇場のひとつで、妻殺しという演目がかかったらしい・・・というわけで、そこにフォーカスした展開になっていきます。
 もうひとつの肉付けは、観客席(つまり覗き見する主人公の自室)でのサブストーリー。
 主人公とその恋人(グレース・ケリー)の、結婚をめぐる駆け引きです。恋人は、束縛を厭い結婚に乗り気でない主人公を、なんとかその気にさせようと甘く迫るのですが、うまく行きません。
 そこで「妻殺し」の舞台に飛び入り参加して、主人公の気を引くような役柄を演ずるのですが、逆に妻殺しの主役の方が舞台を飛びだして、観客席に乗り込んでくるという展開に・・・

 こうした肉付けで、映画は瀟洒にして絢爛な仕上がりになりましたが、原作の持つ緊迫感や焦燥感は若干損なわれたような気がします。ちなみに原作者のウールリッチは、映画完成の祝賀会だかお披露目の試写会だかに、自分が招待されなかったことに随分とヘソを曲げていたそうです。ヒッチコックにしてみれば、基本的なアイデアとプロットを借りただけで、肉付けのほうにこそ本領を発揮した映画だ―という自負があったのかも知れません。

 傍らでファッション誌を広げながら優雅に横たわる恋人を、複雑なまなざしで見つめる主人公。その両脚にはギプス!―というラストシーンに、とうとう主人公は(恋人からも)逃れられぬ身となってしまった・・・という情況が暗示され、主人公にとっては素直にハッピーエンドの物語と断ずることのできない映画です。

 主演のジェームズ・スチュアートは「裏窓」のほかに、「ロープ」「知りすぎていた男」「めまい」の計4本で、グレース・ケリーは「ダイヤルMを廻せ!」「泥棒成金」と合わせて計3本で、それぞれヒッチコック映画の主役を張っています。(男優ではケイリ―・グラントと並んで、女優ではイングリッド・バーグマンと並んで、それぞれ最多主演)いわばヒッチコックの最もお気に入りの男優と女優とで撮った映画だと言えます。 
 それにしてもグレース・ケリーのエレガントな美しさには、特筆すべきものがあります。

裏窓・ロビーカード.jpg

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2018年11月18日

120字の映画館No.08~ヒッチコックその2 「バルカン超特急」

 原題:The Lady Vanishes
 監督:アルフレッド・ヒッチコック 製作:イギリス 1938年
 出演:マーガレット・ロックウッド、マイケル・レッドグレイヴ
 原作:エセル・リナ・ホワイト「バルカン超特急」

大雪に足止めを喰った列車が、ようやく動き出す。様々な事情を秘めた人々を乗せて・・・。その列車からひとりの老婦人が姿を消した―だがそれを主張するのは、ヒロインただひとり!記憶の錯誤か、何者かのたくらみか?謎を乗せた列車は、渓谷を雪原を森をひた走る!!

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 製作後36年を経て日本初公開となった「海外特派員」が、そこそこ受けたからでしょう、同じく日本未公開だった「バルカン超特急」も製作から38年後の1976年、ようやく公開されました。イギリス時代の傑作(あるいは最高傑作)です。
「バルカン」+「超特急」ですが、架空の地理にもとづく、蒸気機関車を舞台にした物語です。作品の内容とは少し乖離した邦題ながら、不穏な情勢と列車の疾駆感をうまく暗示していると思います。
 この映画の、幾重にも張り巡らされた伏線の例として、ひとつ挙げておきます。
映画の冒頭―ホテルの一室で書きものをする老婦人。窓の下で街の音楽師がバイオリンを奏で始める。彼女は耳をそばだて、そのメロディーを諳んじる・・・
 このシーンが重要な伏線となって、失踪の理由が了解されるほか、思わず微笑んでしまうような、鮮やかな幕切れに繋がることになります。

「海外特派員」もこの「バルカン超特急」も学生時代に、かつて松本にあった「シネサロン」という、20席ほどのミニシアターで観ることができました。
 「シネサロン」は安い料金で週替わり一本立て、地方の映画館にはかかりにくいような地味な作品、古い名作、ちょっと古くなった新作、ATG作品などを上映していたので、毎週のように通っていました。
 松本中劇という通常の上映館の二階にあり、同じ階に「ヒッチコック」という喫茶店もあって、映画を観た後はそこで珈琲を飲みながら余韻に浸る・・・という、貧乏学生にしては実に優雅なひとときを過ごしました。

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 映画の原題を直訳すると「貴婦人失踪」です。ヒッチコックはトリュフォーとの対談の中で、「バルカン超特急」の映画も原作も、「パリの貴婦人失踪」という実話(もしくは都市伝説)に基づいている、というようなことを言っています。
 以前の記事「蛇足:映画と原作~ヒッチコック その10」でやや詳しく書きましたので、興味ある方はご参照ください。
posted by Pendako at 10:51| Comment(0) | 120字の映画館 | 更新情報をチェックする

2018年11月17日

120字の映画館No.07~ヒッチコックその1 「海外特派員」

 原題:Foreign Correspondent
 監督:アルフレッド・ヒッチコック 製作:アメリカ 1940年
 出演:ジョエル・マクリ―、ラレイン・デイ

第二次大戦前夜の欧州―要人の暗殺・誘拐に暗躍するスパイ組織を探るなか、米国の海外特派員に降りかかる危機また危機!傘の波さざめく雨中の銃撃、旅客機墜落の主観ショットなど、見せ場もたっぷり。反目する男女がしだいに惹かれ合う、お約束の展開にもハラハラ。

海外特派員・映画ポスター(スペイン版).jpg


 1940年に製作されながら、敵性国家の作品という事情もあり、日本での初公開は戦後30年以上たった1976年でした。ヒッチコックの新作(にして最後の作品)、「ファミリー・プロット」に便乗しての公開だったかと思います。
 印象に残るシーンはたくさんあります。雨中の暗殺と傘の波、逆向きに回る風車、展望台での突き落とし、コートの袖の巻き込み、主人公の新品の帽子・・・こう書いても何のことか分らないと思いますが、私はこれらのシーンに思わずニンマリしてしまいました。ヒッチおじさん、またいろいろ小細工を仕込んでいるよ―と。
 ラスト近く、主人公たちの乗る旅客機が艦砲射撃で被弾します。操縦不能となって機体が降下し、海面に激突するまでを、操縦士目線の主観的なワンショットで捉えたシーンがつとに有名。激突の瞬間、ガラスを突き破って海水が怒涛のようにコックピットに流れ込みます。
 ヒッチコックはのちに、このシーンに凝らした工夫を得意げに語っていますが、可視化が極めて難しいショットに果敢に挑んだ、映画作家としての心意気に打たれます。(CG全盛の今、この凄さはピンと来ないかも知れませんけど)
 ですが私は、その直前のシーンにより強くヒッチコックらしさを印象付けられました。
 旅客機の全体を真横から捉えてから、カメラは徐々に機体に近づいていき、窓の一つにズーム・・・したかと思うと、つなぎ目なしで機内の乗客を映し出す―ここまでをワン・ショットで描いたシーン。
「レベッカ」にも「サイコ」にも同じ手口、いや技法が使われていたからです。

海外特派員・ロビーカード.jpg


 それまで「レベッカ」「白い恐怖」「ダイヤルMを廻せ!」「泥棒成金」「サイコ」「鳥」「フレンジ―」など、ヒッチコックの作品はいくつか観ていました。ただしすべてテレビです。従って、この「海外特派員」が、初めて私が映画館で観たヒッチコック映画になりました。
 ついでに言えば、とても高価だったプレイヤーを24回払いの割賦で誂え、最初に買ったレーザーディスク数枚のうちのひとつが「海外特派員」でした。1983年頃のことです。


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2018年11月16日

120字の映画館No.06~トリュフォーその2 「黒衣の花嫁」

 原題:La mariée était en noir
 監督:フランソワ・トリュフォー 製作:フランス 1968年
 出演:ジャンヌ・モロー
 原作:コーネル・ウールリッチ「黒衣の花嫁」

教会で永遠の契りを結んだふたり、近くでふざけ合う男たち―この光景は何を意味するのか?テラスから墜落する男、毒入りの酒で絶命する男、物置で窒息する男・・・その陰にはいつも、黒衣を着た女の姿があった。青白い復讐の炎を内に秘め、花嫁は次の男に微笑みかける!

黒衣の花嫁 映画ポスター.jpg


 前回とりあげた「暗くなるまでこの恋を」と同じく、ウールリッチ(別名ウィリアム・アイリッシュ)の原作ですね。
 中学の頃、信州の田舎の従兄弟の家で、『家の光』(農家向けの雑誌です)をパラパラめくっていると、この映画の紹介記事が載っていました。「おおウールリッチの映画化か!」と期待が膨らんだのですが、この記事の執筆者が「主演のジャンヌ・モローが、新妻というには、いささかトウが立ちすぎている」と書いていたのが少々気になりました。(なんでこんなことまで覚えているんだろう?)
 とは言いつつ、のちにこの映画を初めて観たのはテレビでだったと思います。日曜映画劇場か月曜ロードショーか、そのあたりは曖昧ですが、原作ほどではないにしろ全篇張り詰めた緊迫感のようなものは感じられて、ミステリ映画として及第点だったと思います。
 話が進むにつれて、次第に復讐の動機が明らかになっていくのは原作と同じです。原作では警察の捜査の進展を描くことによりその過程を示すのですが、映画の方ではフラッシュバックで過去の出来事を断片的に挿入しながら明らかにしていきます。当時の私はその手法がとても斬新に思えました。ただこれは映画初心者の感想で、のちにヒッチコックなどが盛んに使っていた手法だと知りました。特にトリュフォーがヒッチコックの信奉者であり、意図的にオマージュとして、ヒッチコックの手法をなぞる監督であることも。

黒衣の花嫁 映画スチール.jpg


 ヒロインについては『家の光』のとおりで、「突然炎のごとく」(1961年)の頃のジャンヌ・モローであればまだしも、復讐の冷たい炎をうちに秘めた、清楚で美貌の花嫁―という原作のイメージとは少しずれた感じでした。
 後年、「殺意の夏」(ジャン・ベッケル監督 仏 1983年)を観たとき、主演のイザベル・アジャーニこそ、もしかして「黒衣の花嫁」にふさわしいのでは、と思ったことがあります。

 なお、トリュフォーについては過去にアップした次の記事もどうぞ。
  「ちょっとひと休み:映画と原作~ヒッチコック その7」


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2018年11月12日

120字の映画館No.05~トリュフォーその1 「暗くなるまでこの恋を」

 原題:La Sirène du Mississipi
 監督:フランソワ・トリュフォー 製作:フランス 1969年
 出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジャン=ポール・ベルモンド
 原作:ウィリアム・アイリッシュ「暗闇へのワルツ」

写真だけの見合いで結ばれた男女。男は女の美貌に心奪われた。だがそれは仕組まれた罠―女の裏切りが始まる。財産を掠めて女は姿を晦ますも、男は狂おしくその影を追い求めた。妄執の調べにのって、無垢な男と無情な女の踊るワルツは、やがて闇に消えていく・・・

暗くなるまでこの恋を 映画ポスター.jpg


 先に原作のほうを取り上げたので、今回はダメ男を描くことには定評ある、トリュフォーの映画化作品です。(同じ原作の映画化では2001年のアメリカ映画「ポワゾン」がありますが、私はアンジェリーナ・ジョリーが苦手で未見)
 原題にあるSirèneが、この物語を象徴しています。原題を直訳すれば「ミシシッピー河の人魚号」、ヒロインが文通交際の相手に初めて出会うときに乗ってきた船の名前。
 人魚ではありますが、人魚姫のようなマーメイドではなく、航海する船を美しい歌声でいざない、難破させてしまう海の魔物シレーヌです。
 哀れジャン=ポール・ベルモンドは悪女カトリーヌ・ドヌーヴの虜となり、破滅への道をまっしぐら・・・となるわけです。
 しかし邦題の「暗くなるまでこの恋を」はどうにかならんかったものでしょうか。安っぽい恋愛映画みたいで、タイトル眺めただけでむず痒くなってきます。作品の持つフィルム・ノアール感がちっとも伝わらない。私だったら「ベルモンド=ドヌーヴの偽装結婚にご用心」・・・いや、これではコメディ映画か。

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 学生時代に、名古屋のどこの映画館だったか、オールナイト上映で初見。途中、映写機にかけるフィルムの順番を間違えたようで、わけのわかんないストーリーになってしまいました。(先に原作を読んでいたので、脳内置換できましたが)
 初見のときは気づかなかったのですが、この映画の中には過去の映画作品からの引用やパロディが散りばめられ、トリュフォーの敬愛する映画監督、スタンバーグ、ジャン・ルノワール、ヒッチコックなどへのオマージュとなっています。
 悲痛なテーマの映画ながら、遊び心溢れる作品でもあります。

posted by Pendako at 09:58| Comment(0) | 120字の映画館 | 更新情報をチェックする
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