2018年11月12日

120字の映画館No.05~トリュフォーその1 「暗くなるまでこの恋を」

 原題:La Sirène du Mississipi
 監督:フランソワ・トリュフォー 製作:フランス 1969年
 出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジャン=ポール・ベルモンド
 原作:ウィリアム・アイリッシュ「暗闇へのワルツ」

写真だけの見合いで結ばれた男女。男は女の美貌に心奪われた。だがそれは仕組まれた罠―女の裏切りが始まる。財産を掠めて女は姿を晦ますも、男は狂おしくその影を追い求めた。妄執の調べにのって、無垢な男と無情な女の踊るワルツは、やがて闇に消えていく・・・

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 先に原作のほうを取り上げたので、今回はダメ男を描くことには定評ある、トリュフォーの映画化作品です。(同じ原作の映画化では2001年のアメリカ映画「ポワゾン」がありますが、私はアンジェリーナ・ジョリーが苦手で未見)
 原題にあるSirèneが、この物語を象徴しています。原題を直訳すれば「ミシシッピー河の人魚号」、ヒロインが文通交際の相手に初めて出会うときに乗ってきた船の名前。
 人魚ではありますが、人魚姫のようなマーメイドではなく、航海する船を美しい歌声でいざない、難破させてしまう海の魔物シレーヌです。
 哀れジャン=ポール・ベルモンドは悪女カトリーヌ・ドヌーヴの虜となり、破滅への道をまっしぐら・・・となるわけです。
 しかし邦題の「暗くなるまでこの恋を」はどうにかならんかったものでしょうか。安っぽい恋愛映画みたいで、タイトル眺めただけでむず痒くなってきます。作品の持つフィルム・ノアール感がちっとも伝わらない。私だったら「ベルモンド=ドヌーヴの偽装結婚にご用心」・・・いや、これではコメディ映画か。

暗くなるまでこの恋を.jpg


 学生時代に、名古屋のどこの映画館だったか、オールナイト上映で初見。途中、映写機にかけるフィルムの順番を間違えたようで、わけのわかんないストーリーになってしまいました。(先に原作を読んでいたので、脳内置換できましたが)
 初見のときは気づかなかったのですが、この映画の中には過去の映画作品からの引用やパロディが散りばめられ、トリュフォーの敬愛する映画監督、スタンバーグ、ジャン・ルノワール、ヒッチコックなどへのオマージュとなっています。
 悲痛なテーマの映画ながら、遊び心溢れる作品でもあります。

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2018年11月10日

120字の映画館No.04~黒澤明その2 「野良犬」

 監督:黒澤明 製作:映画芸術協会・新東宝 1949年
 出演:三船敏郎、志村喬、淡路恵子

スリ取られた拳銃と、その拳銃が引き起こした殺人事件の犯人を、執念深く追う新米刑事。うらぶれた場末の盛り場、活気満つる闇市、観衆で沸き返る球場・・・やがて長閑な田園で対峙するふたり、犯人の弾丸はあと3発!終戦直後の光と影を描く迫真の刑事ドラマ。

 初めて観たのは、浅草東宝のオールナイト興行でした。黒澤作品「野良犬」「隠し砦の三悪人」「素晴らしき日曜日」「生きる」「虎の尾を踏む男達」の、眩いばかりの5本立て。
 映画が終わるたびに拍手が沸き起こり、地方の学生だった私は、その場内の盛り上がりのほうに感極まりました。
 かつてはそんな時代も・・・かれこれ40年以上昔の話。
 映画館は共感を生む空間、自宅のビデオではこの醍醐味、味わえません。

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 主演の三船・志村コンビもいいですが、犯人の幼馴染役の淡路恵子さんも、演技は生硬ながら(松竹歌劇団の養成学校に在学中、この作品で舞台より先に映画デビュー)、犯人への同情心と刑事への反発心が微妙に揺れ動いていくさまを鮮烈に演じていました。
 私はNHKのドラマ「若い季節」(1961~1964年)の、化粧品会社のやり手女社長役の淡路さんぐらいしか知らなかったので、「野良犬」を観たときは同じ女優とは思えなかったです。
 後年、「男はつらいよ 知床慕情」(1987年松竹)では、何十年ぶりかで三船敏郎と、今度は恋仲になる役で共演していましたね。寅さんが間を取り持つことになるのですが。
 それとプロ野球のオールドファンには、後楽園球場で実際に対戦した巨人-南海戦の、貴重な試合映像にも注目です。川上、青田などといった往年の名選手の練習風景や試合経過が歯切れよく映し出されます。(この球場を舞台に、闇の拳銃売買人を追いつめるのですが、大観衆に危害が及ばずに、いかに検挙するか・・・が見どころ)
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2018年11月09日

120字の映画館No.03~黒澤明その1 「酔いどれ天使」

 監督:黒澤明  製作:東宝 1948年
 出演:志村喬、三船敏郎、中北千枝子

悪臭漂うドブ沼のほとり、猥雑と頽廃はびこる闇市街―口は悪いが善人の酔いどれ医者と、街の顔役を気取る若いヤクザの、葛藤と許容と・・・病魔に怯えつつ虚勢を張る男のぶざまな死にざま、やるせない破滅の物語。唯一の救いを、同じ病に立ち向かう、健気な少女に託して。

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 私が映画館で観た、初めての黒澤映画。
 学生の頃、名作邦画の連続再映企画の興行があって、講義を抜け出し初日初回の、開始時間に10分ほど遅れて映画館に駆けつけると、観客は他に誰もいない!
 私が席に着くや、おもむろに映写機が回り始めるという・・・たったひとりの鑑賞会となりました。「この町には映画文化がないんか!」と愕然とした覚えがあります。
 三船敏郎の、黒澤映画デビュー作。それまで山本勘助や山本五十六のような役でしか知らなかった三船敏郎の、ギラギラとした役柄にぞっこんとなり、黒澤三船コンビの作品は、追いかけずにはおかれない―との意を強くした一篇です。
 ちなみに併映は、谷口千吉監督「暁の脱走」(新東宝1950年)でした。

 終戦から間もない1948年に製作された映画です。
 酔いどれながら、腕は確かな町医者(志村喬)と、病魔に冒され一度は自堕落な生活から足を洗おうとするも、結局は破滅していく若いヤクザ(三船敏郎)の、葛藤と許容を軸とした人間ドラマです。
 さらに、過去に怯える看護助手(中北千枝子)、落ち目のヤクザに同情する呑み屋の女(千石規子)、薄情なキャバレーダンサー(木暮実千代)、健気に病気に立ち向かう女学生(久我美子)と、彼らをめぐる女優陣の役どころも、四者四様に描き分けられていて見事です。(ぐちぐち小言をもらす飯田蝶子さんの婆や役も壺にはまってます)
 生活ごみが投棄されメタンガスがあぶくを立てる沼。そのまわりを駆け回る子どもたち、ギターが奏でる「人殺しのうた」、活気あふれる市中のマーケット、紫煙立ち昇るダンスホール、バーや飲み屋にたむろすチンピラたち、結核という難治の病・・・新鮮な生卵が貴重な滋養源だった、戦後の時代を活写した風俗ドキュメンタリーの趣きもあります。
 いちばんのウラの見どころは、ダンスホールで野蛮人のような振り付けで踊る三船敏郎ですかね。ドラマから浮いたシーンですが、妙に印象深いです。

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2018年11月07日

120字の映画館No.02~東宝特撮映画その2 「モスラ」

 監督:本多猪四郎  特技監督:円谷英二 製作:東宝 1961年
 主演:フランキー堺、香川京子、小泉博、ザ・ピーナッツ

爆撃や砲撃を物ともせず、洋上を渡り、ダムを破壊し、街を押し潰す巨大幼虫!へし折った東京タワーに繭を架け、やがて飛び立つ極彩色の巨大蛾!!すべてはさらわれた双子の小美人を取り戻すため―めくるめく破壊のスペクタクル、日本ファンタスティック映画の金字塔!!! 

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 モスラが、人間に危害を加えようとしたためしはありません。目標物に向かって、ひたすら突き進むだけ。
 進路上に街があったり、人々が暮らしている・・・というのは人間社会の都合。図体がバカでかいからしょうがない、モスラは悪くない―と、幼少時にこの映画を観た私は思いましたね。破壊シーンに恐怖するというより、陶然と見惚れてました。(破壊シーンに慄然とした「世界大戦争」と同じ頃に観ているのに、この違いはなんだろう?)
 特にモスラの幼虫が東京タワーによじ登り、ぐっと反り返ってタワーをへし折るシーンから、糸を吐いて巨大な繭を作り、人間がその繭を熱戦砲で焼き尽くそうするも、かえって羽化を早めたかのように、中から成虫が頭を出し、やがて羽を広げて飛び立っていく・・・この一連のシークエンス。私がこの映画を観たのは6歳ごろだと思うのですが、何度も夢に出てきました。怖いと言うよりも、なぜかしら爽快感を伴う夢でした。
 祖父母の家で養蚕を営んでいたので、「おかいこさま」に似たモスラの幼虫は可愛かったです。

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2018年11月05日

120字の映画館No.01~東宝特撮映画その1 「世界大戦争」

 監督:松林宗恵 特技監督:円谷英二 製作:東宝 1961年
 出演:フランキー堺、音羽信子、宝田明、星由里子

二大陣営が対峙する冷戦下、ひとつの事件を端緒に事故や小競り合いが連鎖し、一触即発の局面へと。父と娘、娘と恋人―小市民の家族風景と対比させながら、核戦争の恐怖を炙りだす。人々の努力むなしく、やがて核は世界中の都市の上空へ・・・ラストの凄絶なカタストロフィー!


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 6歳の頃に父と見たトラウマ映画です。怖くて怖くて、眼を開けてられなかった思い出が。ミニチュアによる特撮―という知識はまだなかったので、現実の出来事として観てました。えらいこっちゃ・・・と。
 東西陣営の冷戦などという世界情勢や、核兵器の脅威などは知らなかったはずですが、この映画が漠然とそんな現実を認識させてくれたように思います。
 アメリカとかソ連とか中共とかが盛んに水爆実験を繰り返していた頃でもあり、誰かに「水爆4発落とされたら、日本は全滅だよ」と説明されたことがあって、絶望的な気分になった覚えもあります。
 あと、水爆実験のあとは雨に放射能が混ざるから「それに濡れると頭が禿げる」とか盛んに言われていました。私はわりと無頓着でしたが、最近になってその影響が出始めたのかもしれません。
 映画のラスト近く、星由里子さんが遠洋上の恋人とモールス信号で交わす最後の会話で、ぐっと胸が締め付けられましたね。家族のささやかな幸せは、つまるところ平和な世界あってこそ、です。

posted by Pendako at 20:43| Comment(0) | 120字の映画館 | 更新情報をチェックする
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