2018年11月13日

120字の読み物世界No.05~山田風太郎 その4 「伊賀の散歩者」

 著者:山田風太郎
 初出:1972年7月『小説現代』 
 「季刊幻想文学第42号 特集:RAMPOMANIA」(アトリエOCTA 1994年10月)より

伊勢・藤堂藩の老藩主が新たに迎えた側妾。その弟、平井歩左衛門が領内を徘徊するのは何故か―?江戸川乱歩の史実上のご先祖様をモデルに、乱歩作品から引用した数々の趣向を絢爛と散りばめた、超絶のパロディ!あなたはいくつわかりましたかと、読者に挑戦する稚気も快!!

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 山田風太郎の項では前回、ホームズのパスティーシュを取り上げたので、今回は江戸川乱歩のパロディです。
 ―厳密に言えば、乱歩の人物像と乱歩の作品のパロディであり、それを忍法帖の枠組みで描くことにより山田風太郎自身の作品のパロディにもなっているという、一筋縄ではいかない作品。
 風太郎をもじった風忍斎という忍者や、のちに日本文芸史上の大変革者となる、伊賀上野のある実在の人物も登場します。
 ここで、作者からの挑戦に応えていきたい誘惑に駆られますが、別の機会に譲りましょう。
 
 作中の平井歩左衛門について触れておきます。
 江戸川乱歩がエドガー・アラン・ポオをもじった筆名というのは有名な話ですが、本名は平井太郎といいます。平井家の家系図を辿ると、伊豆・伊東の百姓、平井十郎右衛門に行きつくそうで、その娘が伊勢の藤堂家に奉公に上がり、その藩主・藤堂高次(伊勢津藩第二代藩主 1602~1676年)の側室になって、揚げ句に次代・高睦を生んで正室となった。この女性には弟・平井友益がおり、姉の口添えで藤堂家に召し抱えられ、乱歩の祖父の代まで藩士として仕えた・・・というようなことを、他の文献による傍証も加えながら乱歩自身が記しています。
「わが夢と真実」という随筆集の中の一篇、「祖先発見記」がそれです。(光文社文庫版『江戸川乱歩全集』第30巻所収)

 山田風太郎は、この姉を「おらん」、弟・友益を「歩左衛門」として「伊賀の散歩者」に登場させているのです。ちなみに「おらん」と「歩左衛門」は「乱歩」の名前を分解した命名でしょう。
 自身の作品集に何度も収録されたほか、多くのアンソロジーにも採られています。ここでは乱歩特集で再録された専門誌『季刊幻想文学』を掲げました。
 乱歩は風太郎の才能を高く買い、風太郎は乱歩を慈父のごとく慕っていました。そんな関係性を彷彿とさせる傑作です。
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2018年11月11日

120字の読み物世界No.04~ウィリアム・アイリッシュその1 「暗闇へのワルツ」

 著者:ウィリアム・アイリッシュ 訳者:高橋豊
 原題:Waltz into Darkness(米国 1947年)
 ハヤカワ・ポケット・ミステリ「暗闇へのワルツ」(早川書房 1970年2月再版)より


男の目の前に現れた女は、写真とはまったくの別人だった!だが彼は、その瞬間恋をした。そのときから彼の人生は、魔性の運命に魅入られていく・・・なんど裏切られても女を恋慕する、男の狂おしいまでの純情!!通信交際を通じて出会った男女の、哀切な破滅の物語。

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 ウィリアム・アイリッシュ(別名コーネル・ウールリッチ)は、代表作「幻の女」が突出した評価を得ています。日本で海外ミステリのオールタイム・ベストを選出すると、必ずひと桁の順位を獲得する人気作。
 反面、その他の諸作(「黒衣の花嫁」や「暁の死線」などを除いて)は、しだいに忘れ去られようとしています。「運命の宝石」「野生の花嫁」「死はわが踊り手」「聖アンセルム923号室」などは半世紀ほど前にハヤカワ・ポケット・ミステリで出たきり、文庫化もされずKindle版も出ていないので、完全に忘却されたに等しいと思われます。(それなりの作品だから、ではありますが・・・)
 小学校以来のファンとして当ブログでは、この作家の昔日の面影を、ほそぼそと書きとめていきたいと思います。

 さて「暗闇へのワルツ」です。
 アイリッシュのミステリに登場するヒロインは、まるで天使のように無垢で純情な女性が多いのですが、「暗闇へのワルツ」は天使の顔をした悪魔―ファムファタルの登場です。
 この作品をミステリの範疇に納めていいものかよく分りません。
 少壮実業家の男が手紙のやりとりだけで結婚を決意した女性と、初めて出会うところから始まります。ところが目の前に現れた女性は、手紙に添えてあった写真とは見違えるような美女だった!
 ―という謎は仕組まれた罠で、それを追求する探偵も登場し、サスペンスフルな駆け引きもあるんですが、解決を見ないままあっさり探偵は殺されちゃいます。
 この部分はあくまでもサブストーリー的な扱いで、主題は「宿命の女」に魅入られた男が破滅の道をまっしぐら・・・というところにあると思われます。
 財産をそっくり横領されても、自分を裏切って逃げ出されても、仕舞いには女のために人を殺めるはめになっても、女のヘタな言い訳や上っ面だけの謝罪に騙される(あるいは騙された自覚を押し殺してしまう)男の哀れさ情けなさ。
 読んでいて「おいおい、いい加減に目覚めろよ」と張り倒したくなるくらいです。
 しかし最後まで純愛を貫いた男の末路には、感動すら覚えたなあ・・・マゾっ気のある男性は必読でしょう。(いえいえ私にはございません)

 中学の頃、このヒロインを同級生になぞらえながら読んだ覚えが・・・性悪だけど男子をみんな惑わせる―なんとなくそんな雰囲気の女子だったので。

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2018年11月08日

120字の読み物世界No.03~山田風太郎その3 「黄色い下宿人」

 著者:山田風太郎
 初出:1953年12月『宝石』
 河出文庫「日本版 ホームズ贋作展覧会〈上〉」(河出書房新社 1990年4月初版)より

「コウモリ傘1本持ったきり行方不明となったジェームズ・フィリモア氏」失踪事件の顛末。解明に乗り出したホームズを出し抜き、嫌疑を受けながらこの謎をみごとに解いたのは、ロンドン留学中の日本人青年だった!事件の真相よりさらに意外な、その青年の正体とは?

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 同時代に実在した著名人が、意外な場所、意外な役どころで物語に顔を出す、後年の明治伝奇小説でお馴染みの趣向は、この出色のホームズ・パスティーシュから始まったのかも知れません。
 ホームズと実在の日本人との邂逅が、TPOすべてに亘って蓋然性の高いことに着眼し、原典(コナン・ドイルの著した4つの長篇、56の短篇を指します)ではほんの一、二行言及されただけの「ジェームズ・フィリモア氏失踪事件」を主題に、原典のルーティーンも生かしながら仕立て上げた、贋作のお手本のような作品です。
 「黄色い下宿人」の題も、原典の「黄色い顔」と「覆面の下宿人」を合体させたもの。
 おそるべし、山田風太郎のアイデアと技巧!
(あえてその日本人名を伏せましたが、この記事内にネタ晴らしが・・・)

 なお、この短篇は『宝石』誌の求めに応じて書かれたものですが、その秀逸な出来映えにびっくりした編集部は、急遽他の作家にも同趣向の作品を依頼し、誌面にて「贋作特集」を組んだということです。
 ちなみに他の掲載作品は、
  城昌幸「ユラリゥム」(エドガー・アラン・ポウの詩の贋作)
  大坪砂男「胡蝶の行方」(G・K・チェスタトン、ブラウン神父ものの贋作)
  島田一男「ルパン就縛」(モーリス・ルブラン、ルパンものの贋作)
  高木彬光「クレタ島の花嫁」(ヴァン・ダイン、ファイロ・ヴァンスものの贋作)
 これらをまとめて読むには、いまのところ『宝石』1953年12月号を古書店で探し出すしかないようです。
「胡蝶の行方」は創元推理文庫「大坪砂男全集1立春大吉」で、「ルパン就縛」は扶桑社文庫「古墳殺人事件」で、「クレタ島の花嫁」は講談社文庫「密室殺人大百科〈上〉」で読むことができますが、これらをまとめ、『宝石』初出時の雰囲気を再現するような形で、どこか刊行してもらえないかしら・・・
 ミステリー文学資料館編纂のシリーズを出している、光文社文庫あたりでどうでしょう。
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2018年11月06日

120字の読み物世界No.02~山田風太郎その2 「おんな牢秘抄」

 著者:山田風太郎
 初出:1959年4~12月『週刊実話特報』に連載
 角川文庫「おんな牢秘抄」(角川書店 1984年3月初版)より

吉宗治下の江戸幕府を揺るがしたある史実を背景に、女死刑囚たちの冤罪を晴らすべく、快刀乱麻の推理をめぐらす美少女・姫君お竜!ミステリの趣向と伝奇小説の醍醐味を併せ持つ、異色の捕物帳。読後の清涼感も一級品の大傑作!!

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 独立したエピソードを通しで読んでいくと、その背後に潜む、より大きなテーマがあぶり出されてくるという、著者お得意の連鎖小説です。
 その昔、古本屋で何気なく贖った東都書房版で初めて読んで、姫君お竜のヒロイン像にたちまち魅了されました。
 上の惹句的紹介文を読んで誤解されるといけないので、「姫君お竜」についてちょっと補足します。
 小説の冒頭に登場する「姫君お竜」は、ひねくれた蓮っ葉の万引き女。彼女がヘマして同心に捕えられるのですが、そのお竜の不幸な境遇に同情し、同心に「許してあげて」と無理なことを命令するのが、大岡越前の娘・霞。
 その霞が「姫君お竜」に成りすまし、彼女が無実と信じる女死刑囚たちの背景を探るため、小伝馬町牢屋敷に潜入捜査する・・・という設定です。
 ですからこの物語で大活躍するのは、大岡越前のじゃじゃ馬姫のほう。推理を働かせるだけでなく、一刀流の使い手でもあり、悪人どもをバッタバッタと薙ぎ倒します。
 戦闘美少女のハシリではないでしょうかね。
 現在は、角川文庫の山田風太郎コレクションの一冊として出ています。(画像は角川文庫旧版 カバー絵:佐伯俊男)
posted by Pendako at 10:27| Comment(0) | 120字の読み物世界 | 更新情報をチェックする

2018年11月04日

120字の読み物世界No.01~山田風太郎その1 「妖異金瓶梅」

 著者:山田風太郎
 初出:1953年10月~1959年4月、『講談倶楽部』『宝石』などに不定期掲載
 角川文庫「妖異金瓶梅」(角川書店 1981年6月初版)より

中国古典文学の世界で繰り広げられる、奇想横溢、余韻嫋々たるミステリ連作集。稀代の好色漢、西門慶をめぐる女たちの、愛欲と嫉妬渦巻くなか、連綿と繰り返される殺人劇。「意外な犯人」の真逆をいく空前絶後の犯人像! 読み通して初めてわかる作者のたくらみ!!


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 昭和28年の第1作「赤い靴」以来、掲載雑誌を転々としながらポツポツ発表され、昭和34年「死せる潘金蓮」で完結を見た作品。それにしては全体の伏線の妙やテーマの一貫性は、あらかじめ綿密な設計図があったかのよう。
 山田風太郎の忍法帖も、やはり中国の古典文学「水滸伝」に触発されて書かれたそうです(「水滸伝」の登場人物それぞれが、さまざまな得物や武術を駆使して武勇伝を繰り広げるのを、忍者の世界に応用)。
 かたや「妖異金瓶梅」は、「金瓶梅」から舞台と設定を借りてミステリに仕上げたわけですが、その換骨奪胎ぶりはこちらのほうが格段に際立っていると思います。
 佐伯俊男の表紙画ゆえに角川文庫(旧版)を掲げましたが、これと廣済堂文庫版には、連作中の一篇「銭鬼」と番外篇「人魚燈籠」が未収録。扶桑社文庫か、角川文庫(新版)の、完全版での入手をお勧めします。(現在は角川の新版のみ流布)

《おことわり》
 実はひと月あまり前、姉妹ブログ『120字の小宇宙』を開設し、昭和期に夢中になった小説や映画やテレビ番組などの紹介記事を作成していたのですが、ふたつのブログの並行運営は、私の手に余ることが判明しましたので、この『心地よく秘密めいた書棚』のほうに統合することにしました。順次記事をこちらに移行します。
 したがって、今後更新する記事の中には、すでに一度投稿されたものも含まれますがご了承ください。(なお、それらの記事の多くは補筆修正する予定です)
posted by Pendako at 23:06| Comment(0) | 120字の読み物世界 | 更新情報をチェックする
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