2018年03月04日

『江戸川乱歩全集』第1巻より「D坂の殺人事件」「赤い部屋」「白昼夢」:乱歩と挿絵画家~その2

講談社版『江戸川乱歩全集』第1巻「屋根裏の散歩者」(1969年4月初版)
 収録作品は次のとおり。(頭に★印のついた作品が横尾忠則の挿絵付きです)

 「二銭銅貨」、「一枚の切符」、「恐ろしき錯誤」、「二廃人」、「双生児」、★「D坂の殺人事件」、「心理試験」、「黒手組」、★「赤い部屋」、「算盤が恋を語る話」、「日記帳」、「幽霊」、「盗難」、★「白昼夢」、「指環」、「夢遊病者の死」、★「屋根裏の散歩者」、「百面相役者」、「一人二役」、「火縄銃」、★「闇に蠢く」
「江戸川乱歩に捧げる」(有馬頼義)、「作品解題」(中島河太郎)

 挿絵の付された作品を中心に、簡単なコメントを記します。

「D坂の殺人事件」
 大正14年(1925年)1月、『新青年』に発表された短篇。

 明智小五郎が初登場した作品として有名。(後年の、ダンディな青年探偵ではなく、この頃は、モジャモジャ頭で、木綿の着物によれよれの兵児帯をしめた、どちらかというとむさ苦しいイメージです)

 一種の密室殺人を扱っています。
 そのからくりよりも、不審者を目撃した二人の陳述者の、ひとりは「白い着物を着ていた」と証言し、もうひとりは「黒い着物を着ていた」と証言する―
 その食い違いを、ある錯覚で説明するところが印象深かったですね。

江戸川乱歩全集第1巻01.jpg

※「D坂の殺人事件」より(挿絵:横尾忠則)


 挿絵は、被害者の女性(古本屋の女房)を描いているのでしょう。
 ちょっと見には庭先で行水しているような風情ですが、作中これに該当する描写はあったかしらん?(⇒ありました。ただし噂話で語られるだけの場面で、行水でもありませんでした)

 いく筋もの赤い傷跡は痛々しいですが、嫣然と微笑んでいるようにも見えます。
 深読みすれば、そこに犯罪の背景や動機を暗示しているようでもあります。

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posted by Pendako at 14:43| Comment(0) | 江戸川乱歩 | 更新情報をチェックする

2018年03月02日

講談社版『江戸川乱歩全集』について:乱歩と挿絵画家~その1

 昨秋、所用があって実家に赴く機会が何回かあり、そのついでに、父親の遺した本や、私がここで暮らしていた頃に集めた本などを検め、残すものと処分するものの、仕分けを行ないました。

 父親の蔵書で困ったのは、書き込みが多いこと。
 購入年月日や読了年月日、寸評やら感想やらが本の見返しにしたためてあり、本文中にも傍線やメモがやたら書きつけてあるのです。
 古書店に引取ってもらうのも気が引けます。
 郷土史関連や画集などを除いて、涙を呑んで廃棄処分としました。

 私らが小さい頃に馴染んだ児童書もかなり残っていて、懐かしさのあまり拾い読みなどして半日ほど潰れてしまいました。
 そうなると愛着がふたたび滲み出て・・・
 当初みな処分するつもりが、何冊かは残すことになりました。

 中学・高校から大学にかけて贖った本で、めぼしいものは以前自宅のほうに引き取っていたので、ここに残っている新書や文庫本は、あらかた処分してもよいものばかり。
 単行本や全集もので再読の可能性のあるもの、それと近年実家に戻るたびに近くの古書店を回って集めたものだけを、取っておくことにしました。

 そんなこんなで、保存すべき書籍を1ヶ所にまとめたところ、段ボール箱3杯分ほどになりました。

 作業の過程で、このようなものも出てきました。

乱歩全集特典(横尾忠則挿絵画).jpg

 
※講談社『江戸川乱歩全集』刊行記念(絵:横尾忠則)


 昭和44年(1969年)から翌年にかけ、乱歩歿後初めての全集が講談社から刊行されました。
 私は中学生の頃、書店の棚でたまたまこの全集の第1巻、「屋根裏の散歩者」を見つけて衝動買いしたのですが、たしかその付録として上の5枚組の挿絵集が入っていました。
 第1巻所収の横尾忠則の挿絵を別刷りしたもので、和紙製の特製封筒に入っています。

 なお、この挿絵集は全巻予約特典として予約購読者に配付された、とする説もあるようですが、第1巻の購入者は全員入手できたのが正解だと思います。

 それはいいとして、ここから本題に―

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2016年11月10日

異稿・「パノラマ島奇譚」と「陰獣」が出来る話

 『幻影城NO.7 江戸川乱歩の世界』(1975年7月増刊)の巻頭に置かれた「「パノラマ島奇譚」と「陰獣」が出来る話」ですが、当然ながら筆者・横溝正史の視点から語られています。

 その経緯について、私なりの観点で眺めてみたいと思います。
 もちろん論考・論文の類ではありません。私的な随想めいたものですので、あらかじめご了解のほどを。

 江戸川乱歩「二銭銅貨」をひっさげ、戦前を代表する総合誌『新青年』誌上で文壇デビューを果たしたのが、1923年(大正12年)4月のことです。このとき乱歩29歳。

 早稲田大学の政経学部を卒業(1916年=大正5年)後、貿易商社員、タイプライターの行商、造船所勤務、古本屋開業、漫画雑誌の編集、屋台の支那ソバ屋、公務員、新聞記者、団体職員、工場支配人・・・と様々な職を転々とした末に訪れた転機でした。

 その後の活躍ぶりは目覚ましく、「二廢人」「D坂の殺人事件」「心理試験」「赤い部屋」「白昼夢」「屋根裏の散歩者」「人間椅子」「踊る一寸法師」「火星の運河」「お勢登場」「人でなしの恋」・・・といった珠玉の短編群が、ほんの数年のうちに世に出されていったのです。 

 一方、横溝正史は1921年(大正10年)4月に、懸賞小説入選という形で、処女作「恐ろしき四月馬鹿」『新青年』誌上に発表しています。

 つまり作家デビューは、江戸川乱歩より横溝正史のほうが、2年ほど先んじているのです。

 このとき正史は薬学の専門学校に入学したばかりの19歳で、すぐに専業作家となったわけではありません。
 在学中そして卒業後も、数編の短編を幾つかの雑誌にぽつぽつと発表する程度の、アマチュアレベルの作家でした。

  ちなみに『恐ろしき四月馬鹿』(1976年 角川書店→1977年角川文庫)という作品集に、この時期の作品が収められています。

恐ろしき四月馬鹿.jpg

 
 これを贖ったときに読んだ印象で言うと、いずれの作も発端の不可思議性と結末の意外性を器用に織り込んだ佳作揃いでしたが、乱歩の初期作品を読んだ時のインパクトには到底及ばない出来でした。

 話を戻して・・・続きを読む
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2016年02月25日

江戸川乱歩 生誕120年・歿後50年をふりかえる~その7(最終回)

 ・・・その頃、日本中の町という町、家という家では、二人以上の乱歩好きが顔を合わせさえすれば、まるでお天気の挨拶でもするように、少年少女時代の「乱歩体験」の話をしていました・・・

『ミステリマガジン 2015年9月号 特集 幻想と怪奇 乱歩輪舞ふたたび」』(早川書房 2015年7月)

 日下三蔵・新保博久・千街晶之お三方の座談会、「現代へ続く江戸川乱歩」も、そんな感じで始まります。 
 
 前年(生誕120周年)に引き続き、今回(没後50年)も「乱歩輪舞」をキーワードにした特集です。

ミステリマガジン201509.jpg


 この特集では、長篇「人間豹」にスポットがあてられています。

 おお、「人間豹」か・・・

 冒頭の乱歩体験になぞっていえば、「人間豹」は私にとって、人に言えない恥ずかしい読書体験の筆頭にあげられるべき作品です。

 以前、このブログの投稿で、

・・・江戸川乱歩に出会うのは、中学1年の頃に近所の本屋でたまたま手にした新潮文庫版『江戸川乱歩傑作選』でした。

 ・・・この文庫を読み切って、江戸川乱歩に対する認識が一変しました。
(日本にも、こんなに凄い推理作家がいたのか!)

 追い討ちをかけるようにして、その直後あたりから講談社版『江戸川乱歩全集』全15巻の刊行が始まりました・・・


といった内容のことを書きましたが・・・
 
 実は、新潮文庫『江戸川乱歩傑作選』講談社版『江戸川乱歩全集』のあいだに、私は桃源社版『江戸川乱歩全集』(全15巻 1961年10月~1963年7月)の一冊、第10巻『人間豹』を読んでいるのです。

 これを手に取ったのは、私の住む市の、青少年センターの中にあった図書室でのことでした。
 中学生の私は一時期、日曜ごと、ここに通いつめていたのです。(他に行くとこなかったんかい~と突っ込みたくなりますが)

 その図書室は、採光窓を除く部屋の四方に書棚が設えられ、ぎっしりと、しかし無造作に本が詰まっていました。
 会議テーブルと折りたたみ椅子でいくつかの島ができており、いつもそれぞれに利用者がひとりふたりと座っていました。
 
 誰か特定の個人の蔵書が市に寄贈されて、せっかくだからと急ごしらえの図書室をつくり、市民の閲覧に供した・・・なんとなくそんな感じの施設でした。
 
 並んでいる本の傾向が、どうも偏っているのです。
 元の持ち主の趣味嗜好が現れている、としか思えない偏りかたでした。
 児童書など申し訳程度においてあるだけで、青少年にふさわしくないような書物も少なからずありました。

 私にとって幸いだったのは、海外ミステリがわりと揃っていて、早川ミステリ・シリーズ(通称ポケミス)や創元推理文庫は、初めてここで出会ったと記憶します。
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posted by Pendako at 22:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 江戸川乱歩 | 更新情報をチェックする

2016年02月22日

江戸川乱歩 生誕120年・歿後50年をふりかえる~その6

 前回までで、江戸川乱歩 生誕120年・歿後50年の特集本(評伝・評論・解説・エッセーの類)のレヴューは、あらかた終わりました。(『ミステリマガジン 2015年9月号 特集 幻想と怪奇 乱歩輪舞ふたたび』は入手後に言及します。)
 
 他にも乱歩生誕120年・歿後50年にちなんだ様々な企画がありましたが、すべてには目が行き届かず、また注目しながらもほとんど現物に接しないままに終わってしまった、というのが正直なところです。
 
 当然、したり顔の論評などできませんので、いくつかをトピックスとして捉え、簡単な感想を記します。

ポプラ社から、少年探偵団シリーズのパスティーシュ作品が刊行されました。

 『みんなの少年探偵団』(2014年11月)万城目学湊かなえ小路幸也藤谷治・著
 『全員少年探偵団』(2014年12月)藤谷治・著
 『少年探偵』(2015年1月)小路幸也・著
 『恐怖の緑魔帝王』(2015年3月)芦原すなお・著
 『みんなの少年探偵団2』(2016年3月刊行予定)有栖川有栖歌野晶午大崎梢坂木司平山夢明・著

 以上が、いまのところのラインナップ。なんと豪華な布陣ではありませんか。

 ただ、私自身は年少時、少年探偵団シリーズは見事にすっ飛ばして、いきなり大人ものにワープしたので、特別な思い入れがあるわけではありません。
 後年、講談社から『少年倶楽部文庫 全42巻』(1975年10月~1976年11月)が刊行されたときに、初めて「怪人二十面相」「少年探偵団」を読んだ・・・ぐらいのもんです。

 それはともかく、この少年探偵団のパスティーシュというのは、意外な盲点だったかもしれません。
 もちろん怪人二十面相ということであれば、小林信彦や北村想、芦辺拓などにパロディ・パスティーシュの諸作がありますが、乱歩以外の作家による、少年探偵団の活躍を真正面から捉えた作品というのは、これまであまりなかったような気がします。

 ちょっと読んでみたい気がしてきました。

岩波書店から宮崎駿のカラ―口絵をあしらった乱歩の『幽霊塔』(2015年6月)が出版されて注目されました。

 あの岩波書店が乱歩の通俗長篇を???

 という驚きのあとに、宮崎駿を絡めてアリバイ作りをしたんだな、とついつい邪推してしまいました。(未読の方に一言、「幽霊塔」は通俗長篇とはいえ、エログロ色の薄い、破綻もすくない良質のスリラーです。)

 アリス・マリエル・ウィリアムソンの'A Woman in Grey'(1898年、 邦訳『灰色の女』論創社 2008年)を黒岩涙香が翻案した『幽霊塔』(1899年萬朝報に連載)の、そのまた翻案版が乱歩の『幽霊塔』
 この乱歩版『幽霊塔』を中学時代に読んだ宮崎駿が、アニメ『ルパン3世 カリオストロの城』の制作に携わった・・・と、「目羅博士の不思議な犯罪」と同様に、ここでもひとつの文学上のモチーフが、ときにメディアを飛び越えながら転生を繰り返しています。続きを読む
posted by Pendako at 12:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 江戸川乱歩 | 更新情報をチェックする
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