2018年07月01日

N先生のこと(続き)~一冊の手帳から

(承前)
 N先生に因んだ思い出話の続きです。

 同じ年の夏休み、私の所属する山岳部が陸上部の合宿に相乗りする形で、北アルプス縦走に参加したことがあります。

 山岳部・陸上部合わせて生徒30名近くに、両部の顧問や体育科の教師など6~7名が随行する、ちょっと大がかりな山行でした。

 その教師陣のなかに、なぜかしらN先生も加わっていたのです。

 山岳部の顧問という立場だったと思いますが、私たちはそれまで部活でN先生に接したことは一度もなかったので、「へえ~?」と思っただけでした。
 あるいは山登りの好きなN先生が志願して、表向き臨時顧問のような肩書で参加したのかもしれません。

初夏の常念岳.jpg

 
※安曇野から望む初夏の常念山脈(提供:photo AC)


 燕岳(つばくろだけ)~大天井岳(おてんしょうだけ)~常念岳~蝶ヶ岳の、北アルプスとしては比較的易しい常念山脈縦走コースです。

 北アルプスに10座ほどある標高3,000m超級の峰は、この縦走路に含まれず、2,922mの大天井岳が最高峰。

 登山口の中房温泉(標高1,400m)から、燕岳(2,716m)までの、高低差1,300m、約5㎞の登りがとにかくきつかった覚えがありますが、主稜線にでてからは極端な起伏は少なく、並走する槍穂高連峰の、すばらしいパノラマ展望を堪能する余裕は多少あったかと思います。
 這松帯のなかで、思いがけず雷鳥親子に遭遇することもできました。

 教師や陸上部員は山小屋利用の軽装備。
 山岳部員は当然ながら露営生活なので、テントや寝袋、食料や調理用具など一式担いだ重装備。

 歩行ペースに差がでますので、山岳部組はいつも早めの出発、遅めの到着。
 休憩などの時間配分は、自分たちにまかされていました。

続きを読む
posted by Pendako at 16:26| Comment(0) | 読書遍歴 | 更新情報をチェックする

2018年06月29日

N先生のこと~一冊の文庫本から

 実家の物置を整理していると、思わぬものが出てきます。
 たいていはクズ同然のガラクタだったりするのですが、ガラクタなりに存在感をアピールしてくるものもありまして・・・

 古いダンボールの靴箱があって、開けてみると確かに見覚えのある文庫本や新書が10冊あまりでてきました。
 いずれも私が、高校時代に読んだものです。

 そのタイトルの一部を記すと―

「砂の上の植物群」「痴人の愛」「真夜中のマリア」「キャンディ」「グループ」「イマージュ」・・・

高校時代の禁書.jpg

※高校時代の禁書


 当時のことを思い出し、顔がほてる思いでした。
 内容はあえて伏せますが、大学進学で下宿生活が始まるときに、親に見つかったらヤバいと思われる本だけ箱に詰め、自室に隠しておいた覚えが、うっすらと甦ったのです。
 おそらく、結局は見つかってしまったらしいのですが・・・

 その中にあった一冊の文庫本をめぐる話。

 高校二年のころのできごとです。

 物理担当の教師がN先生でした。
 ちょっと見に昭和の脇役俳優・村上冬樹さん(東宝特撮映画でお馴染み)を思わせる風貌で、高校教師というより大学の教授然とした温厚な紳士―そんな印象が残っています。

 当初私は、この先生に特別な親しみを覚えていたわけではないのですが、ある日の授業を境に、認識ががらりと変わりました。
 なにかしら、私と同属の人種―とでもいうような親近感を覚えたのです。
 
 梅雨が明け期末テストも終わって、気分はすでに夏休み・・・たぶんそんな時期だったと思います。
 教室内のうわついた雰囲気のなかで、その授業は始まりました。

 ところがN先生は一度も教科書を開くことなく、生徒たちにこう切り出しました。

続きを読む
posted by Pendako at 21:12| Comment(0) | 読書遍歴 | 更新情報をチェックする

2013年05月22日

シャーロック・ホームズが私を大人の読書に導いた=その5

 ホームズ・シリーズの蔵書のご紹介、続きです。
 これらは、新刊書店でごく普通に手に入るものなので、あえて私が紹介するまでもないのですが。

《光文社文庫 新訳シャーロック・ホームズ全集》 ※訳者は日暮雅通
  「シャーロック・ホームズの冒険」 (2006年1月初版)
  「シャーロック・ホームズの回想」 (2006年4月初版)
  「緋色の研究」 (2006年7月初版)
  「シャーロック・ホームズの生還」 (2006年10月初版)
  「四つの署名」 (2007年1月初版)
  「シャーロック・ホームズ最後の挨拶」 (2007年4月初版)
  「バスカヴィル家の犬」 (2007年7月初版)
  「シャーロック・ホームズの事件簿」 (2007年10月初版)
  「恐怖の谷」 (2008年1月初版)

 光文社文庫はここ10数年ほど、古参のミステリ通をうならせるような企画が目白押しでした。

 「江戸川乱歩全集」全30巻しかり、「山田風太郎ミステリー傑作選」全10巻しかり、ミステリー文学資料館・編の「幻の探偵雑誌シリーズ」「蘇る推理雑誌シリーズ」などもしかりで、この新世紀初のホームズ全集も詳細な注釈や訳者(シャーロキアンの第一人者)による解説、著名人のエセーまで添えられて、懇切丁寧な造本で好感が持てます。
 シドニー・パジェットら当時の挿絵が復刻されており、視覚的にもホームズの世界に浸れるような仕掛けになっています。

続きを読む
posted by Pendako at 09:51| Comment(1) | TrackBack(0) | 読書遍歴 | 更新情報をチェックする

2013年05月17日

シャーロック・ホームズが私を大人の読書に導いた=その4

 創元推理文庫版を買い集めているうちに知ったのですが、当時は著作権の関係で特定の出版社からしか「事件簿」が出せない状況が続いており、この文庫では「事件簿」は読めないということでした。
(著作権の制約が消滅した1991年に、深町眞理子・訳でようやく「事件簿」も仲間入りしましたが。)

 私は「事件簿」のないホームズなんてと悲観しましたが、妙案を思いつきました。

 私は新潮文庫版の「シャーロック・ホームズの事件簿」「シャーロック・ホームズの叡智」の2冊を買ってきました。
 そして「事件簿」の裏表紙を本体から切り離しました。
 「叡智」は背表紙を縦に分断して、元来「事件簿」に収録されているはずの2篇とその後ろに繋がる裏表紙のみを切り離しました。
そして裏表紙の欠けた「事件簿」に「叡智」から切り離した部分を合体させたのです。接着は背表紙のつなぎ目と内側のつなぎ目とをセロテープで止めただけの、美観上好ましからざる体のものでしたが、ともかく一冊の中に12篇が収まった「事件簿」が出来上がりました。
 そしておもむろにこの未読の作品集を紐解いたのです。

 創元推理文庫版8冊のとなりに、しばらくはこの私の合成版「事件簿」が居心地悪そうに寄り添っていました。
 なんせ背表紙のセロテープを貼った部分がしだいに黒ずんでくるんですよね。今ならもう少しマシな製本をするでしょうが、中学生の知恵ではそれが限界でした。

 時代は下って、現在私の書棚には《創元推理文庫・阿部知二訳版+新潮文庫・延原謙訳合成版「事件簿」》の他に、次の訳本が並んでいます。

続きを読む
posted by Pendako at 17:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書遍歴 | 更新情報をチェックする

シャーロック・ホームズが私を大人の読書に導いた=その3

 「合本 シャーロック・ホームズの冒険/回想」を読み切った自信から、大人向けの書物であってもなんら恐れることはない、との意を強くしました。
 一気に読書の幅が広がりました。

 図書室にならぶ書物は、その気になりさえすれば、すべて読むことのできるものばかりになりました。
 家にあった父親の蔵書も、それまで背表紙のいかめしい字面に敬遠していたものが、急に身近な知の宝庫のように思えてきました。
 本屋に行っても、お目当ては僅かに児童書がならぶ棚の一角に過ぎなかったものが、お金の融通さえつけば、どの棚の本も購入可能な対象となったのです。

 この意識の変革が、すべて「ホームズに出会ったからこそ」と言い切ることはできないまでも、私の読書レベルを高みに押し上げる、ひとつのきっかけにはなったと思います。

 そんなわけで私の読書傾向は多様化し、「中学生らしく人格形成や教養を高めるための健全な書物」を読みあさる一方で、ミステリ嗜好やSF嗜好がさらに嵩じて「趣味の読書」に傾倒することにもなりました。(自分でも嫌味なほどのバランス感覚が、このころからあったようです)

 前置きが長くなりましたが、「合本 シャーロック・ホームズの冒険/回想」読了後、ホームズ譚だけはすべて自分の手元に揃えておきたい、いつでも好きな時に読み返すことができるようにしたいと、強く願うようになりました。

 実はその頃まで、文庫本という安価で手軽な書籍形態があることを知りませんでした。大人の本に目を向けたとき、初めてその、手のひらサイズの本の存在に気づいたのです。
 近所の本屋さんで探すと、文庫版のホームズ物は2種類見つかりました。

続きを読む
posted by Pendako at 10:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書遍歴 | 更新情報をチェックする
タグクラウド