2020年07月19日

120字の読み物世界No.26~江戸川乱歩「海外探偵小説 作家と作品」その1

 編著者:江戸川乱歩 
 「海外探偵小説 作家と作品」(早川書房 1995年9月再版)より

乱歩の偉大な業績は創作だけにとどまらない。晩年はむしろ研究者、伝道者、発掘者として、日本の探偵小説界を強力に牽引した。ポーへの傾倒、カーへの愛着、チェスタートンへの心服・・・この書に満ち満ちる愛と情熱こそがその原動力!まさしく彼は全身全霊、探偵小説の鬼に違いなかった!!

「海外探偵小説作家と作品」本体表紙.jpg

※「探偵小説作家と作品」本体表紙(再版)

 ポケミス(ハヤカワ・ポケット・ミステリの略)は1953年発刊から今に続く、長大なミステリ叢書です。
 当初しばらくは角書に、「江戸川亂歩監修 世界探偵小説全集」とあったように、作品選定や解説文に、乱歩が深く関わっていました。
 その乱歩執筆の解説文や、乱歩が『宝石』誌などの媒体に発表した作品論・作家論などを集め、さながら作家事典のような体裁でまとめた書物が、「海外探偵小説 作家と作品」です。

 ここに書影を掲げたのは、早川書房創立50周年を記念して、数十年ぶりに復刊された再版本(1995年9月刊)ですが、かつて私はこの初版本(1957年4月刊)を、宝物のように大切にしながら読んだものです。
               
 中学2年のころ、講談社版『江戸川乱歩全集』で「幻影城」(正・続)を読み終えると、海外ミステリに対する興味が俄然沸き起こりました。
 比較的安価な創元推理文庫は新刊書店で、ちょっとお高いポケミスは古本屋で、少ない小遣いをやりくりしながら、ぽつぽつと漁り始めたのです。

 刊行年の古いポケミスにはよく、後ろのページに「海外探偵小説 作家と作品」の広告が載っていました。まだ知らない作家の名前がたくさん並んでいます。
 浅瀬で水浴びを楽しんでいた初心者が、いざミステリという大海に漕ぎ出すには、恰好の手引きに思えました。
ポケミス広告ページ.jpg

※ポケミス広告ページ

 そこであるとき思い立って、早川書房にお手紙を出したのです。
 この本の在庫、有りや無しや、有れば一冊所望いたしたく、至急ご回答請う―といった内容を、中学生の拙い文で。

 すぐに丁寧な返信が届きました。
「なにぶん年月を経た出版物ですので、若干の汚れはございますが、僅かながら在庫はございます」といった、手書きの文面でした。

 さっそく注文しました。
 支払いは郵便為替か現金書留で、という指定があったかと思います。当時の私はいずれも不案内で、普通の封書に代金・送料を入れる、という方法で送金したような気がします。(あとでそれが不正と知って、ドキドキしたものです)

 ほどなくして品物が届きました。
 全体的に、なんとなく古びているという印象でしたが、汚れやシミなどはなくきれいな状態の本でした。
 書店で入手できない本は、出版社から直接購入することもでき、それを初めて実践した―というのが何よりも嬉しかったですね。
 
 その「海外探偵小説 作家と作品」の目次が、次の画像―
「海外探偵小説作家と作品」目次.jpg

※「探偵小説作家と作品」目次

 取り上げられているのは、欧米の作家91名(複数の筆名を持つ作家の、別名義含む)です。
 ポー、ディケンズ、コリンズ、ドイルといった草創期の作家や、クリスティ、クイーン、カー、ハメット、チャンドラーといった、現在も広く読み継がれるお馴染みの作家たち。
 この本の刊行時点では人気があったものの、今ではほとんど顧みられなくなった作家もいます(ミッキー・スピレイン、E・S・ガードナーなど)。
 またポケミスで一冊二冊出たものの、日本での人気や評価が得られないまま埋もれた作家もいます(C・H・B・キッチン、ドロシイ・S・デイヴィス、ハーバート・ブリーンなど)。

 収められた解説文はその成り立ちから、だいたい次のように分類されます。
 1) 乱歩がポケミスに書いた解説文。
 2) 乱歩が『宝石』、『別冊宝石』、『黒猫』等の雑誌や、『探偵作家クラブ会報』等の機関誌に発表した文。
 3) 乱歩がこの本のために書き下ろした新稿。
 4) 田中潤司がポケミスに書いた解説文、あるいは「二十世紀著述家辞典」の該当項目を翻訳・引用した文。

 なお、田中潤司は日本版『エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン』(早川書房 現『ミステリ・マガジン』)の創刊準備にも携わった、ミステリ研究家・翻訳家です。

 また「二十世紀著述家辞典」は、1942年にアメリカで出版された「Twentieth century authors :a biographical dictionary of modern literature 」( Stanley J. Kunitz / Howard Haycraft 編)のことだと思われます。

 寄せ集め、と言ってしまえばそれまでですが、これだけの数の欧米作家を揃え、ミステリ愛好家の便宜を図るという試みは、おそらく日本では初めてのことでしょう。
 
 近年になって国書刊行会から、次のような書籍が刊行されました。

 「世界ミステリ作家事典〔本格派篇〕」(森英俊・編著 1998年初版第1刷)

 「世界ミステリ作家事典〔ハードボイルド・警察小説・サスペンス篇〕」(森英俊・編 2003年12月初版第1刷)

 それぞれ900ページを超える、ミステリ・ガイドの決定版ともいうべき本です。
 本文の内容も付録の資料も充実して、ミステリ愛好家にとっては痒いところに手の届く、実に驚異的な労作であることは間違いありません。

 ではこれらによって、乱歩の「海外探偵小説 作家と作品」が、その価値を大きく減ずることになったか?

 そうならないのが乱歩たる所以で、次回は内容にも少し触れながら、そんなことをつらつらと書いてみましょう。

 (続く)

posted by Pendako at 22:25| Comment(0) | 120字の読み物世界 | 更新情報をチェックする
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