2017年03月28日

創元推理文庫との出会い③~解説目録を熟読する

 前々回、「創元推理文庫解説目録」を入手した経緯などに触れましたが、その続きです。

 1968年頃の思い出話。
 半世紀(!!!)も昔の、色褪せた記憶の潤色作業で恐縮ですが・・・

 三億円事件が世間を揺るがせた年です。

 メキシコ・オリンピックでは、サッカー日本代表が地元メキシコを下して銅メダルの快挙。にわかサッカー・ファンが急増しました。(私もそのひとり)

 なんの予備知識もなしに、たまたまテレビで放映された「マジカル・ミステリー・ツアー」を観て、ビートルズというイギリスのロックバンドを、私が初めて意識した年でもあります。

 学業には、見事に背を向けていました。

 父の書棚にあった文学全集の何冊かを拾い読みする傍ら、ミステリやSFにのめりこんでいった時期です。

 その指標となったのが、「創元推理文庫解説目録」でした。

 これを手にしてしばらくは、そこに並べられた書名や解説文から内容を推し量りながら、作品の格付けを行うという作業に没頭しました。

 格付け、というと大げさですが、要は少ない小遣いをやりくりしながらハズレのない作品を贖うための選り分けです。

 既読のものには✔、読んでみたいものには〇、特に興味をそそられたものには◎、自分の嗜好に合いそうもないものには△、いずれの範疇にも入らないものは無印・・・

 ざっとこんな区分で、解説目録に並んだ書名の頭に、赤鉛筆で印を書き込んでいったのですが、これが実に面白い作業でした。

 あかね書房版「少年少女世界推理文学全集」で出会った作家や作品は、創元推理文庫にもあらかた収められていました。

 クリスティ、クイーン、クロフツ、カー、ヴァン・ダインなど、大御所の諸作。

 特に「○○殺人事件」でタイトルを統一したヴァン・ダインの12作品、エラリー・クイーンの国名シリーズや「X・Y・Zの悲劇」などが整然と並ぶさまは、ある種様式美めいていて圧巻でした。

 言うまでもなく、これらには〇印をチェック。「エジプト十字架の謎」には✔と◎。読み返したい既読書の筆頭でした。

エジプト十字架の謎.jpg


 ルルーの「黄色い部屋」もミルンの「赤い館」もヒルトンの「学校殺人事件」もありましたが、これらは✔のみ。

 もちろんシャーロック・ホームズやブラウン神父やアルセーヌ・ルパン(創元推理文庫ではアルセーヌ・リュパン)も顔を揃えています。

 何より驚き、かつうれしかったのが、それまで見たことも聞いたこともない作家名や作品名が、大量に並んでいたことです。

 児童書ミステリにありがちな「○○の謎」とか「○○の秘密」といった定形的なネーミングとは一線を画す、スタイリッシュなタイトルの諸作。

技師は数字を愛しすぎた.jpg


 「ミス・ブランディッシの蘭」ハドリー・チェイス
 「シンデレラの罠」セバスチャン・ジャプリゾ
 「技師は数字を愛しすぎた」ボワロ&ナルスジャック
 「ロシアから愛をこめて」イアン・フレミング
 「死刑台のエレベーター」ノエル・カレフ
 「女狩人は死んだ」ベン・ベンスン
等々。

女狩人は死んだ.jpg


 タイトルだけで○でしたね。

 特に「シンデレラの罠」は、その蠱惑的な題名に加え、解説文にも大いに感化され、三重丸を付けたような気がします。

シンデレラの罠.jpg


 
私は二十歳の娘、億万長者の相続人である。しかも『これから私が物語る事件は、巧妙にしくまれた殺人事件です』という言葉で始まる。私は事件の探偵であり、証人であり、被害者であり、そのうえ犯人でもある。いったい私とは何者か? 一人四役を演ずる空前絶後のトリック!


 こんな感じ。

 もちろんミステリ入門者の基本図書「世界短篇傑作集1~5」も◎
 ここで江戸川乱歩の名を見つけ、そういえば小学生の時に「影男」(ポプラ社のジュブナイル版)を読んだっけと再認識。(これが乱歩の大人物を読んでみようか、というきっかけになっています。)

世界短編傑作集1.jpg

 SF分野に目をやると、ウェルズやアシモフといったおなじみ(といってもそれぞれ1~2冊の児童書を読んだだけ)の名前がありましたが、その他は全く未知の世界。
 初見の作家名、作品名が並んでいます。

 カプセル怪獣みたいなウィンダム、音楽の一形式かなんか?のバラード、不吉で不穏な雰囲気の漂うブラッドベリ(Blood Berryの連想か?)・・・

 特にレイ・ブラッドベリの、ぞくっとするタイトル「何かが道をやってくる」

 “ある年の万聖節前夜、ジムとウィルの十三歳の二少年は、一夜のうちに永久に子供ではなくなった。カーニバルの騒音の中で回転木馬の進行につれて、時間は現在から未来へ過去から未来へと変わり、魔女や恐竜の徘徊する悪夢のような世界が展開する。SF界の抒情詩人が世に問う絶妙なリズム。ポオの衣鉢をつぐ一大ファンタジー。”

 という解説文にも痺れて、◎

 ヴァン・ヴォークト「非Aの世界」「非Aの傀儡」では、なにかしら哲学的な命題めいたタイトルに惹かれて〇

 バローズの火星シリーズは、当然のごとくすべて◎。シリーズ掉尾の「巨人ジョーグ」には誇らしげに✔の刻印。

 解説文を読んだだけで血沸き肉躍る、E.E.スミスのレンズマン・シリーズやスカイラーク・シリーズも〇、〇、〇の連打。

 当時、たしか土曜の午後に「原子力潜水艦シービュー号」というアメリカのSFドラマが放送されていて、楽しみに観ていました。
 目録に「原子力潜水艦シービュー号」「シービュー号と海底都市」を見つけた時にはうれしい驚きがあったものです。(それぞれ別の作者、というのがちょっと不思議でしたが。)

 でも、なぜか〇はつけなかったはず・・・

 ちなみにTV版の制作者は米国の映画プロデューサー、アーウィン・アレン。
「原子力潜水艦シービュー号」に前後して放映された「宇宙家族ロビンソン」「タイム・トンネル」「巨人の惑星」もこの人の制作。

 英国ジェリー・アンダーソンの「サンダーバード」や「謎の円盤UFO」などと並んで、年少期のSFマインドを大いに刺激してくれたものです。

 話を戻すと、フレドリック・ブラウンも気になった作家のひとりです。

 ミステリ分野にもSF分野にも、それぞれ10冊近い作品がラインナップされていたのです。
 コナン・ドイルがホームズ譚などのミステリと並行して「失われた世界」などのSFを著したことは知っていましたが、そんな器用な作家がここにもいた、という発見です。

 「手斧が首を切りにきた」「彼の名は死」「死にいたる火星人の扉」「3、1、2とノックせよ」などのミステリ作品。

3、1、2とノックせよ(旧版).jpg


 「天使と宇宙船」「73光年の妖怪」「未来世界から来た男」「スポンサーから一言」などのSF作品。

 ・・・そうこうしているうちに読みたい本、読むべき本はたちまち数十冊に及んだかと思います。

 この時点ですでに、ミステリ・SF好きを自認していましたが、学校の図書館から借りるなど、児童向けの本を二十冊前後読んだだけの初心者レベル。✔の付くものはごく限られていました。

 最終的にはこの目録を✔で埋め尽くす・・・そんな意気込みがあったかどうかも覚えていませんが、なんだか新しい世界がぱっと開けたような気がしたものです。

 ちょっと残念だったのは、ウィリアム・アイリッシュコーネル・ウールリッチ)の作品が「黒いカーテン」「死の第三ラウンド」ぐらいしか出ていなかったことです。(ほどなくして「暁の死線」が出たのを皮切りに、ハヤカワ・ミステリを補完する形で徐々に充実してくるのですが、当時はこの2冊だけだったと思います。)

 記憶はかなり曖昧になっていますが、当時そんなふうにして「創元推理文庫解説目録」を愉しんでいたなという印象だけは、今でも強く残っています。
posted by Pendako at 10:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 創元推理文庫 | 更新情報をチェックする
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