2016年12月06日

創元推理文庫との出会い・番外篇~文庫解説目録を読み比べる

・・・リナ・アスガースは、八年近くも夫と暮らしてから、やっと自分が殺人者と結婚したことをさとった・・・ショッキングな書き出しで始まる本書は、妻を愛し、歓心を得ようとしながら、妻の心とはうらはらな言動をする異常性格の夫に献身的につくす健気な女の不可解な性と、その内心の葛藤を描いて新生面を切り開いた犯罪心理畢生の大作。


故郷に背をむけて大都会ニューヨークの虜となったダンサー稼業の女のまえに、突然姿を現わした風来坊青年。彼は奇しくも女の故郷の町の隣家の子だった。その彼はいま殺人の嫌疑に問われている。潔白を証明するための時間はあと五時間しかない。深夜のニューヨークに孤独な若い二人の捜査は進む。


短篇を書かせては当代随一の名手の代表的短編集。奇抜な着想、軽妙なプロット、論より証拠、まず読んでいただきましょう。どこからでも結構。ただし最後の作品、「うしろを見るな」だけは、最後にお読みください。というのは、あなたがお買いになったこの本は、あなたのために特別の製本がしてあるからです。さて、その意味は?


一年以上の月日を費やしてイタリアのコモ湖畔におこる三重四重の奇怪なる殺人事件が犯人の脳髄に描かれた精密なる「犯罪設計図」にもとづいて、一分一厘の狂いもなく着実冷静に執行されてゆく。三段構えの逆転と、息もつかせぬ文章の味は、万華鏡の如くけんらんとして、緻密であり、サスペンスに富み、重厚無類のこくがある傑作中の傑作。


「以上4冊の書名がさて、あなたにはすべてわかりますか・・・」という題名あてクイズをしたいわけではありません。

 これらの解説文というかちょっと長めのキャッチコピーは、「創元推理文庫解説目録1984・1」(いま手元にある一番古い版)から引用したものです。

解説目録(創元推理文庫).jpg


 どうです、思わずその文庫本を手にして読んでみたくなりませんか?

 最初の解説文では、「異常性格の夫に献身的につくす妻」という不合理が、いわゆるミステリ的な謎以上に不可解な謎として投げかけられます。

 二番目のは、これを読んだだけで、胸の焦がれるようなサスペンスの予兆を感じさせます。

 三番目のは、どんな仕掛けがあるのかお手並み拝見、と誰しもがつい覗いてみたくなるでしょう。

 最後のは(文のつながりが少々ぎこちないですが)、「読まさずにおくものか」的な、不思議な熱気が伝わってきます。

 さらに、もしあなたがこれらの本をすでに読んでいるとしたら、その作品のセールスポイントを実にうまく引き出していたと思いませんか?

 創元推理文庫の解説目録には、こんな文章がぎっしり詰まっているのです。

 1タイトルあたり、39字×4行の枠。
 1頁あたり6タイトル。
 
 それがこの版では約160頁にわたって、おじさん、拳銃、猫、時計、帆船、SFのマークで示す分野別に網羅されているのです。(下の画像参照)

解説目録(創元推理文庫-2).jpg


 これらのマークは古くからのファンならお馴染み、文庫背表紙などに表示されたマークで、その作品の大雑把な傾向や作風がわかって便利だったのですが、現在は使われておりません。

 この解説文をもとに欲しい本には丸印を、そして読み終わった本には✔をつけながら、ひとり悦に浸った経験というは、決して私一人だけのことではなく、誰しも経験のあることでしょう。。

 もちろん、他の出版社からも文庫解説目録はでています。
 悲しい性で、いまだに本屋のレジ近くにこれらが置いてあるとつい貰ってきてしまうのですが、それらが積もり積もると世の中にはこんなにたくさんの文庫シリーズがあったのかと驚いてしまいます。
 だいぶ前に処分したので手元には10数種ほどしか残ってないですが、マイナーな文庫のものも含め40種近くあったと思います。

 で、それらを私の主観で大雑把に二分すると

  ①読み物として十分面白いもの

  ②どんなタイトルがあるか確認するだけのもの

になります。

 ①の筆頭には、創元推理文庫が挙げられ、岩波文庫新潮文庫ハヤカワ文庫、(かつての)角川文庫と続きます。

解説目録(岩波文庫).jpg


 読み物として面白いからこそ、独立した書籍としても商売が成り立つ、ということでこんな書籍も出されました。

 「岩波文庫解説総目録 1927-1996〈上〉・〈中〉・〈下〉」岩波書店 1997/2)

 「新潮文庫全作品目録1914-2000」新潮社 2002/7)

 「東京創元社文庫解説総目録1959.4-2010.3 別冊付録〔資料編〕付」東京創元社 2010/12)

 解説目録を繰り返し読み込んで、ついつい本体のほうを読んだ気になってしまうこともままありますが。

 ②のほとんどは大手出版社のもの。文春文庫講談社文庫光文社文庫集英社文庫河出文庫・・・私がいま最もお気に入りのちくま文庫もこちら。

 これら②に属する目録では、予備知識なしにその解説文を読んで、この本は面白そうだから買ってみよう、なんて気になったことがないです。
 解説文の文章量が少ない、というのが共通点ですが、それ以上に文章の中身がすかすかで、アピールするものがないと、勝手な印象をもってます。

 それと上下巻などに分冊された本をひとくくりにして、解説文を1冊分の分量ですませてしまうというのも、私からすると手抜きのように感じてしまいます。
 限られたスペースを最大限に活用しないなんて、もったいないですね。(あ、ハヤカワ文庫も、その傾向あり)

 まあ、大手の場合、新刊書店に行けば目立つ場所、広いスペースを占拠しているので、解説目録を通じてカタログ販売的に本を売るといった方法は重視されていないのでしょうが。

 繰り返しになりますが、「創元推理文庫解説目録」は書名とその解説を並べただけというだけでなく、作品の鮮やかなイメージを喚起してくれるような、わくわくする面白さに満ちた冊子でした。しかも無料。

 最後に、冒頭に挙げた解説文は、創元推理文庫の次の4冊についてのものです。解説文に劣らず、本体の中身もしっかりと面白いので、未読の方はぜひどうぞ。

  フランシス・アイルズ「レディに捧げる殺人物語」(鮎川信夫・訳 1972/9)

  ウィリアム・アイリッシュ「暁の死線」(稲葉明雄・訳 1969/4)

  フレドリック・ブラウン「真っ白な嘘」(中村保男・訳 1962/5)

  イーデン・フィルポッツ「赤毛のレドメイン家」(宇野利泰・訳 1970/10)

 蛇足の蛇足ながら、江戸川乱歩の評論集「鬼の言葉」(光文社文庫『江戸川乱歩全集』第25巻)に収められている「赤毛のレドメイン一家」を読んでみると、あることに気付きますよ。
posted by Pendako at 12:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 創元推理文庫 | 更新情報をチェックする
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