2016年02月25日

江戸川乱歩 生誕120年・歿後50年をふりかえる~その7(最終回)

 ・・・その頃、日本中の町という町、家という家では、二人以上の乱歩好きが顔を合わせさえすれば、まるでお天気の挨拶でもするように、少年少女時代の「乱歩体験」の話をしていました・・・

『ミステリマガジン 2015年9月号 特集 幻想と怪奇 乱歩輪舞ふたたび」』(早川書房 2015年7月)

 日下三蔵・新保博久・千街晶之お三方の座談会、「現代へ続く江戸川乱歩」も、そんな感じで始まります。 
 
 前年(生誕120周年)に引き続き、今回(没後50年)も「乱歩輪舞」をキーワードにした特集です。

ミステリマガジン201509.jpg


 この特集では、長篇「人間豹」にスポットがあてられています。

 おお、「人間豹」か・・・

 冒頭の乱歩体験になぞっていえば、「人間豹」は私にとって、人に言えない恥ずかしい読書体験の筆頭にあげられるべき作品です。

 以前、このブログの投稿で、

・・・江戸川乱歩に出会うのは、中学1年の頃に近所の本屋でたまたま手にした新潮文庫版『江戸川乱歩傑作選』でした。

 ・・・この文庫を読み切って、江戸川乱歩に対する認識が一変しました。
(日本にも、こんなに凄い推理作家がいたのか!)

 追い討ちをかけるようにして、その直後あたりから講談社版『江戸川乱歩全集』全15巻の刊行が始まりました・・・


といった内容のことを書きましたが・・・
 
 実は、新潮文庫『江戸川乱歩傑作選』講談社版『江戸川乱歩全集』のあいだに、私は桃源社版『江戸川乱歩全集』(全15巻 1961年10月~1963年7月)の一冊、第10巻『人間豹』を読んでいるのです。

 これを手に取ったのは、私の住む市の、青少年センターの中にあった図書室でのことでした。
 中学生の私は一時期、日曜ごと、ここに通いつめていたのです。(他に行くとこなかったんかい~と突っ込みたくなりますが)

 その図書室は、採光窓を除く部屋の四方に書棚が設えられ、ぎっしりと、しかし無造作に本が詰まっていました。
 会議テーブルと折りたたみ椅子でいくつかの島ができており、いつもそれぞれに利用者がひとりふたりと座っていました。
 
 誰か特定の個人の蔵書が市に寄贈されて、せっかくだからと急ごしらえの図書室をつくり、市民の閲覧に供した・・・なんとなくそんな感じの施設でした。
 
 並んでいる本の傾向が、どうも偏っているのです。
 元の持ち主の趣味嗜好が現れている、としか思えない偏りかたでした。
 児童書など申し訳程度においてあるだけで、青少年にふさわしくないような書物も少なからずありました。

 私にとって幸いだったのは、海外ミステリがわりと揃っていて、早川ミステリ・シリーズ(通称ポケミス)や創元推理文庫は、初めてここで出会ったと記憶します。
  
 ただし、ミステリといっても本格派の諸作は少なく、ポケミスで読んだのは(中学生にして)カーター・ブラウンハニー・ウェストシリーズなどのお色気ミステリ。

 創元推理文庫ではアイリッシュ『死の第三ラウンド』ジャプリゾ『寝台車の殺人』フレドリック・ブラウン編『SFカーニバル』など。

 変わったところでは創元クライム・クラブが何冊かあって、J・J・マリック『ギデオンの夜』ベルトン・コップ『消えた犠牲』などを読んだ覚えがあります。

 もちろん、島田一男松本清張佐野洋笹沢左保といった戦後のミステリ作家の作品や、川端康成三島由紀夫舟橋聖一石川達三大江健三郎などの純文学系の作品、岩波書店『日本古典文学大系』なども、ここでちょっと齧りかけたわけです。

 極めつけは宇能鴻一郎で、まだ「あたし・・・なんです」の独白体官能小説でブレイクする前の、エロスの極北的な、書名は忘れましたが、確か切腹を題材にしたような作品なども読んだりして・・・暗澹とした読後感を抱いた記憶があります。

 その中に乱歩が一冊、桃源社版『江戸川乱歩全集』の第10巻『人間豹』があったのです。
 
 暢気な会社員・神谷芳雄の不幸は、半人半獣の人間豹・恩田と、女性の好みが一致したことでした。

 恩田は、神谷の恋人、カフェ女給・弘子に横恋慕し、誘拐します。ただし恩田にとって弘子は、恋の対象ではなく、残虐非道な変態殺人の対象だったのですが・・・

 弘子を失って1年、傷心癒えた神谷は、弘子にそっくりな女性、レビュー女王の江川蘭子に恋をします。
 そして繰り返される、恩田による蘭子誘拐。
 神谷は蘭子の行方を追いますが、その奮迅もむなしく、蘭子は恩田の毒牙にかかり、暴虐の末に殺されてしまいます。

 前半はそんなストーリー展開で、後半から名探偵・明智小五郎が登場、人間豹と追いつ追われつの対決が始まります。

 その明智の愛妻・文代さんの顔立ちが、これまた弘子・蘭子に瓜二つ。
 後半のストーリー展開はある程度読めますね。

 そうです、恩田は明智探偵を危機に陥らせたばかりか、みたび「好みの女性」である文代さんを拉致。
 文代さんの運命やいかに・・・という猟奇色、スリル感、怪奇趣味、エログロ萌え全開の活劇長篇となっているのです。

 この後半に、中学生男子にとっては、あまりに扇情的な問題シーンが控えていました。

「人間豹」の章立てからすると、「熊~恐ろしき借家人~喰うか喰われるか~金口の巻煙草~恐ろしき猛獣団長~Z曲馬団~美しき半人半獣~大空の爆笑(最終章)」のあたり・・・
 
 いくつかのシーケンスがフラッシュバックで転換しながら進行し、読み手の気持ちは、明智探偵の懊悩、文代さんの恐怖と羞恥、観客の好奇、人間豹の嗜虐心・・・を往ったり来たりしながら、妖しく揺れ動くなかで・・・・いよいよ訪れる、明智夫人一世一代の名場面、というわけです。
 
 人間豹の手に堕ち、素っ裸にされた文代さんが、熊の着ぐるみを着せられ(人間豹ならぬ人間熊)、大観衆の好奇の視線を浴びながら、サーカスの舞台に立たされ、

 「喰うか喰われるか!! 印度の猛虎と北海の大熊の大血闘!!」

を演じさせられるはめになる、という凡人にはとうてい思いつかないシチュエーション。

 虎(実は虎に似せた豹)が熊(の着ぐるみを纏ったかよわき文代さん)をいたぶるうちに、熊の着ぐるみは裂け始め、しだいに若い女の白い上半身が露出して、「美しき妖怪は艶やかに笑っていた。イヤ、笑う様な口つきで泣き叫んでいた」といった光景が、衆人環視の中で展開されるのです。
 
 これを読んでしばらくは、夜毎に文代さんのあられもない姿態が思い浮かばれて、悶々とした夜長を過ごしたことでございます。いえ、誇張ではなく・・・

 ん・・・?

 『ミステリマガジン』の乱歩特集をレビューするつもりが、思わぬ乱歩迷宮に迷い込んでしいましました。

 その他にも、江戸川乱歩生誕120年・歿後50年に関連した企画やイベントの続きとして、

 ・映画『D坂の殺人事件』の公開

 ・実業之日本社少年画報社から乱歩原作旧作マンガのコレクションの刊行

 ・乱歩作品を原案としたテレビアニメ『乱歩奇譚 Game of Laplace』の放映

 ・テレビドラマ『黒蜥蜴』の放映

・テレビドラマ『シリーズ・江戸川乱歩短編集 1925年の明智小五郎』の放映

 ・歿後50年により2016年に著作権保護期間が終了、青空文庫で乱歩作品公開開始

 などについてもコメントを、と思っていました。

 しかしながら、ここでひとまず終わらせていただこうと思います。
 なんとなれば―

 ・・・それは最早蛇足である。筆者も飽きた。読者諸君も恐らくは飽き果てられた事であろう。少なくとも、我が敬愛する乱歩の為人、その業績、その影響は、ここ数回のブログ記事によって「もう分った、分った」と顔の前で手を振らねばならぬ程、分り過ぎるほど分ってしまったに違いないからである・・・(でもないか) 
posted by Pendako at 22:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 江戸川乱歩 | 更新情報をチェックする
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