2013年04月24日

この全集の特色というか全体的な感想というか、一旦区切りをつけたるためのまとめ あかね書房『少年少女世界推理文学全集』=その7

 さて、長々とあかね書房『少年少女世界推理文学全集』について書き連ねてきましたが、これらの文章は「戦後児童文学とミステリの関わり」とかいったようなテーマを体系的に論じよう、などという意図は一切ありません。
 単なる私個人の思い出ばなしです。
 10歳前後の頃のことを鮮明に覚えているはずもなく、したがって記憶違いや勘違いが数多く含まれていると思います。
 また、あかね書房版で読んだ作品のうちの多くは、後年になって「大人版」で読み返しているので、既に印象や記憶に歪みが生じてしまっているかもしれません。

 20巻中15冊ほどが私の手元にあり(あるきっかけで、ここ10年ほどのあいだに古書で買い集めたものです)、これらを読み返すことも可能ですが、おそらく昔読んだ時の印象とはだいぶ違ったものになると思います。

 まァ、苦しい言い訳はこれくらいにして、この全集の特色や全体的な感想を羅列してみたいと思います。

1.欧米の1910年代~40年頃の本格ミステリ黄金時代の代表的な作家が、きちんとセレクトされている(クリスティ、ヴァン・ダイン、クイーン、ディクスン・カー、クロフツなど)。ミステリの基本中の基本があらかた押さえられる。

2.本格ミステリだけでなく、サスペンス派(アイリッシュなど)、ハードボイルド(ハメット、チャンドラー)、スリラーまたは冒険ミステリ的な作品(ルブラン、モームなど)のほか、ミステリと近縁関係にある怪奇小説やミステリ的な要素を持つSFなどバランスよく配置されており、当時の年少読者の嗜好を満たし、新たな好奇心をかき立てるようなラインナップ。

3.全巻のうら表紙に、この全集の監修者として「川端康成・中野好夫・阪本一郎」の名が恭しく表記されているが、これらの方が編集にどの程度関わったか不明。この全集を、文学的もしくは教育的な側面から権威付けするための、名義貸しのような意味合いがあると思われる。

4.実質的な監修者は誰か?私は訳者のひとりでもある福島正実さんの発言力が、かなり大きかったのではと推測する。この当時『SFマガジン』の初代編集長として、SFの布教活動に熱心だったろうから、全集の中にしれっとアシモフやハインラインを紛れ込ませた張本人も彼なのでは?

 このあたりの経緯や事情については、内田庶さん(この方も訳者のおひとり)が森英俊/野村宏平・編著「少年少女昭和ミステリ美術館」 (平凡社 2011年10月刊)所収のエッセイで言及されています。興味ある方はどうぞ。

5.シャーロック・ホームズが2巻分を占めているのは、その人気度から理解できる。しかし同一作家であるアイリッシュとウールリッチがそれぞれ1巻ずつの割り当てられているは異例の扱いに思われる。

 ウールリッチは江戸川乱歩が熱っぽく称揚してから、日本では過剰にもてはやされたような気がしないでもないですが、私にとってはラッキーでした。

6.全集のうちほとんどの巻は、長編ミステリの二本立てになっており、数百ページの文庫本2冊分を1巻に収めるには、極端な抄訳というかダイジェスト版になる。それらの作品がもつ本来の雰囲気やディテール、あそびの部分などはバッサリ省略されていると思われる。こうした制約のもと、その作品の魅力を年少読者に訴えるための訳者のご苦労は、相当のものだったのでは。

7.ポオ、コナン・ドイル、チェスタートンの巻は、それぞれ6、7篇を収める短編集となっている(第2巻「シャーロック・ホームズ冒険」は長編1、短編2)が、これらもかなりの抄訳とならざるを得ない。

8.そうした中で(どうも私の好みで、こだわってしまいますが)、アイリッシュ「恐怖の黒いカーテン」では少し長い中編1と短編1の組み合わせ、ウールリッチ「非常階段」では短編2の組み合わせとなっており、原作のもつムードをかなり忠実に再現できたと思われる。

 だいたいウールリッチの作品は、そのプロットだけ取り出すとツッコミどころ満載の作品が多く、あの独特の文体というか話術があればこそ、読む方は主人公たちの不安や焦燥に感情移入し、不条理に満ちた世界を主人公と一体となって彷徨しながら、ハラハラドキドキ感を満喫する…のだと思います。
いや、そろそろまとめに入んないと。

9.「推理小説」ではなく「推理文学」と銘打ったところ、装幀に意を凝らし知的でハイセンスな造りにしたこと、また監修や巻末の「読書の手引き」の顔ぶれに文学者や教育学者を揃え、年少者がミステリを読むことに眉を顰めがちな教育者や親を安心させる作戦が、見事に功を奏している。

10.その後ミステリはますます多様化し、またミステリのジャンルを飛び越えるような作品も陸続と生まれてきているが、現在においても年少者のミステリ入門編として、この『少年少女世界推理文学全集』は立派に通用するのではないかと思われる。(というのは褒めすぎで、幾つか入れ替えたほうがいいかなァ…現在では消えた作家、作品もあるので)

 思いつくままに書きましたが、かなり大雑把な内容になってしまいました。
 改めてこの全集について触れる機会もあると思いますが、その時にはもう少しまともな内容にしたいですね。
 また、このところ書影のアップをサボってしまいましたが、おりをみて手持ちの巻の表紙ぐらいは写真で紹介していこうと思います。

次回は別のテーマで駄文を綴っていきます。まだ何も決めてません。
この記事へのコメント
「少年少女世界推理文学全集」を探していてこちらにたどり着きました。
小学生の頃は、本は買うのでなく、週一家族で通う図書館で借りるものだったため、自分では一冊も持っていませんでしたが、このシリーズのほとんどを借りて読んだと思います。
小学生の息子に読ませたいと思ったのですが、もう売ってないんですね。古書扱いになっていますね。ミステリーが好きそうな息子に読ませたいと思い、あかね書房に先ほど復刻版希望のご意見を書いたところです。
自分も、もう一度読みたいと思うのですが、子供向けなのでどんな印象になるかも楽しみです。
Posted by KAORUKO at 2014年08月13日 20:01
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