2013年04月17日

最初の一冊はこれ、アイリッシュの「恐怖の黒いカーテン」 あかね書房『少年少女世界推理文学全集』=その2

 小4の春頃のことでしょうか。
 それまで私は、いわゆる名作童話や学習図鑑などを読んでは真っ当な教訓や知識の吸収にいそしんでいたのですが、学校の図書館に通ううち、書棚のある一角が異様に盛り上がっていることに気づき始めました。

 そこだけはいつも数冊を残して十数片の代本板が並んでいるのです。
 どうもその書棚の一段枠に収められている一群の書物は、返却されるそばから新しい借り手に貸し出される…という状況がいつも続いているようなのです。

 全貌は窺えないのですが、入れ替わりに並んでいる数冊のタイトルから受ける語感は、実に蠱惑的なものでした。
 「なぞ」「秘密」「事件」「冒険」「呪い」「怪」「名探偵」…

 ある日、私はそのうちの一冊を手に取りました。運と偶然が重なったとしか思えないのですが、それがアイリッシュ『恐怖の黒いカーテン』だったのです。

恐怖の黒いカーテン.jpg

 モダンな装幀とスマートな表紙絵、読み始める前からワクワクするような仕様の本でした。

 ここであらすじを記すのは退屈なだけでしょうから、読後の印象だけ言うと「ひょっとしてこの作者、ボクの好みにぴったしじゃん?」というもの。

 実はこの本には表題作の他に「アリスが消えた」という短編も併載されており、そちらのほうが独特で濃厚なムードが漂っていて、子供心には強烈なインパクトがありました。

 (駆け落ち同然に)結婚したばかりの若い夫婦が、新婚旅行先で一緒に投宿できないような状況に置かれ、やむを得ず別々のホテルに泊まるのですが、翌朝夫が妻を迎えに行くと、その宿のホテルマンたちは口を揃えたように「そんな女性客は泊まっていない」「宿帳にもサインがない」「あんたの顔など知らない」と証言するばかり。

 ウィリアム・アイリッシュといえば、常にミステリ番付の上位にくる「幻の女」が有名ですが、この「アリスが消えた」にも同じ趣向が凝らされています。

 主人公の吃驚、戸惑い、不安、焦燥などが胸に染み入り、私はすっかり、若妻のアリスを必死に探し求める主人公に、感情移入しながら読了しました。
 ハッピーエンドの物語なのですが、作中に漂う寂寥感にこそ、この作者の本質が表れているのだとまで感じ入った次第です。

いずれの作も創元推理文庫で読むことができます。

「恐怖の黒いカーテン」 ⇒ 『黒いカーテン』(宇野 利泰・訳 原題:The Black Curtain 1941年) ※ちなみに私が所持している文庫の奥付を見ると1981年12月11日の24版ですが、その上の行に「1690年2月13日 初版」と明記されています。初版は元禄時代だったかぁ~

「アリスが消えた」 ⇒ 『アイリッシュ短編集2 死の第三ラウンド』所載の「消えた花嫁」(田中小実昌・訳 原題:All at Once, No Alice 1940年)

 …と思ってAmazonで検索したら、どうも今のところ絶版(もしくは品切れ)のようですね。

 これをきっかけにミステリの世界に魅了され、のめり込むことになるのですが、とにかく最初に出会ったミステリということで、かれこれ50年近く前の出来事を鮮明に覚えているのです。
この記事へのコメント
2013年04月17日の記事 最初の一冊はこれ、アイリッシュの「恐怖の黒いカーテン」 あかね書房『少年少女世界推理文学全集』=その2を読みました。まさにおっしゃるとおり!「わーなつかしい!」です。しかも、本に魅了されるきっかけはまさにこの「恐怖の黒いカーテン」。さらに「アリスが消えた」のインパクトも全く同感!朝会で読書週間のスピーチをすることになり、うろ覚えのマイ読書体験を調べているウチに御ブログにたどり着きました。(私教師の端くれ)これからも
拝見させてもらいたいと思っています。感動的コンテンツをありがとうございました。
Posted by 50代のおじさん at 2014年11月06日 08:15
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