2018年11月10日

120字の映画館No.04~黒澤明その2 「野良犬」

 監督:黒澤明 製作:映画芸術協会・新東宝 1949年
 出演:三船敏郎、志村喬、淡路恵子

スリ取られた拳銃と、その拳銃が引き起こした殺人事件の犯人を、執念深く追う新米刑事。うらぶれた場末の盛り場、活気満つる闇市、観衆で沸き返る球場・・・やがて長閑な田園で対峙するふたり、犯人の弾丸はあと3発!終戦直後の光と影を描く迫真の刑事ドラマ。

 初めて観たのは、浅草東宝のオールナイト興行でした。黒澤作品「野良犬」「隠し砦の三悪人」「素晴らしき日曜日」「生きる」「虎の尾を踏む男達」の、眩いばかりの5本立て。
 映画が終わるたびに拍手が沸き起こり、地方の学生だった私は、その場内の盛り上がりのほうに感極まりました。
 かつてはそんな時代も・・・かれこれ40年以上昔の話。
 映画館は共感を生む空間、自宅のビデオではこの醍醐味、味わえません。

野良犬・映画ポスター2.jpg


 主演の三船・志村コンビもいいですが、犯人の幼馴染役の淡路恵子さんも、演技は生硬ながら(松竹歌劇団の養成学校に在学中、この作品で舞台より先に映画デビュー)、犯人への同情心と刑事への反発心が微妙に揺れ動いていくさまを鮮烈に演じていました。
 私はNHKのドラマ「若い季節」(1961~1964年)の、化粧品会社のやり手女社長役の淡路さんぐらいしか知らなかったので、「野良犬」を観たときは同じ女優とは思えなかったです。
 後年、「男はつらいよ 知床慕情」(1987年松竹)では、何十年ぶりかで三船敏郎と、今度は恋仲になる役で共演していましたね。寅さんが間を取り持つことになるのですが。
 それとプロ野球のオールドファンには、後楽園球場で実際に対戦した巨人-南海戦の、貴重な試合映像にも注目です。川上、青田などといった往年の名選手の練習風景や試合経過が歯切れよく映し出されます。(この球場を舞台に、闇の拳銃売買人を追いつめるのですが、大観衆に危害が及ばずに、いかに検挙するか・・・が見どころ)
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2018年11月09日

120字の映画館No.03~黒澤明その1 「酔いどれ天使」

 監督:黒澤明  製作:東宝 1948年
 出演:志村喬、三船敏郎、中北千枝子

悪臭漂うドブ沼のほとり、猥雑と頽廃はびこる闇市街―口は悪いが善人の酔いどれ医者と、街の顔役を気取る若いヤクザの、葛藤と許容と・・・病魔に怯えつつ虚勢を張る男のぶざまな死にざま、やるせない破滅の物語。唯一の救いを、同じ病に立ち向かう、健気な少女に託して。

酔いどれ天使ポスター.jpg


 私が映画館で観た、初めての黒澤映画。
 学生の頃、名作邦画の連続再映企画の興行があって、講義を抜け出し初日初回の、開始時間に10分ほど遅れて映画館に駆けつけると、観客は他に誰もいない!
 私が席に着くや、おもむろに映写機が回り始めるという・・・たったひとりの鑑賞会となりました。「この町には映画文化がないんか!」と愕然とした覚えがあります。
 三船敏郎の、黒澤映画デビュー作。それまで山本勘助や山本五十六のような役でしか知らなかった三船敏郎の、ギラギラとした役柄にぞっこんとなり、黒澤三船コンビの作品は、追いかけずにはおかれない―との意を強くした一篇です。
 ちなみに併映は、谷口千吉監督「暁の脱走」(新東宝1950年)でした。

 終戦から間もない1948年に製作された映画です。
 酔いどれながら、腕は確かな町医者(志村喬)と、病魔に冒され一度は自堕落な生活から足を洗おうとするも、結局は破滅していく若いヤクザ(三船敏郎)の、葛藤と許容を軸とした人間ドラマです。
 さらに、過去に怯える看護助手(中北千枝子)、落ち目のヤクザに同情する呑み屋の女(千石規子)、薄情なキャバレーダンサー(木暮実千代)、健気に病気に立ち向かう女学生(久我美子)と、彼らをめぐる女優陣の役どころも、四者四様に描き分けられていて見事です。(ぐちぐち小言をもらす飯田蝶子さんの婆や役も壺にはまってます)
 生活ごみが投棄されメタンガスがあぶくを立てる沼。そのまわりを駆け回る子どもたち、ギターが奏でる「人殺しのうた」、活気あふれる市中のマーケット、紫煙立ち昇るダンスホール、バーや飲み屋にたむろすチンピラたち、結核という難治の病・・・新鮮な生卵が貴重な滋養源だった、戦後の時代を活写した風俗ドキュメンタリーの趣きもあります。
 いちばんのウラの見どころは、ダンスホールで野蛮人のような振り付けで踊る三船敏郎ですかね。ドラマから浮いたシーンですが、妙に印象深いです。

酔いどれ天使 スチール.jpg


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2018年11月08日

120字の読み物世界No.03~山田風太郎その3 「黄色い下宿人」

 著者:山田風太郎
 初出:1953年12月『宝石』
 河出文庫「日本版 ホームズ贋作展覧会〈上〉」(河出書房新社 1990年4月初版)より

「コウモリ傘1本持ったきり行方不明となったジェームズ・フィリモア氏」失踪事件の顛末。解明に乗り出したホームズを出し抜き、嫌疑を受けながらこの謎をみごとに解いたのは、ロンドン留学中の日本人青年だった!事件の真相よりさらに意外な、その青年の正体とは?

日本版ホームズ贋作展覧会(上).jpg


 同時代に実在した著名人が、意外な場所、意外な役どころで物語に顔を出す、後年の明治伝奇小説でお馴染みの趣向は、この出色のホームズ・パスティーシュから始まったのかも知れません。
 ホームズと実在の日本人との邂逅が、TPOすべてに亘って蓋然性の高いことに着眼し、原典(コナン・ドイルの著した4つの長篇、56の短篇を指します)ではほんの一、二行言及されただけの「ジェームズ・フィリモア氏失踪事件」を主題に、原典のルーティーンも生かしながら仕立て上げた、贋作のお手本のような作品です。
 「黄色い下宿人」の題も、原典の「黄色い顔」と「覆面の下宿人」を合体させたもの。
 おそるべし、山田風太郎のアイデアと技巧!
(あえてその日本人名を伏せましたが、この記事内にネタ晴らしが・・・)

 なお、この短篇は『宝石』誌の求めに応じて書かれたものですが、その秀逸な出来映えにびっくりした編集部は、急遽他の作家にも同趣向の作品を依頼し、誌面にて「贋作特集」を組んだということです。
 ちなみに他の掲載作品は、
  城昌幸「ユラリゥム」(エドガー・アラン・ポウの詩の贋作)
  大坪砂男「胡蝶の行方」(G・K・チェスタトン、ブラウン神父ものの贋作)
  島田一男「ルパン就縛」(モーリス・ルブラン、ルパンものの贋作)
  高木彬光「クレタ島の花嫁」(ヴァン・ダイン、ファイロ・ヴァンスものの贋作)
 これらをまとめて読むには、いまのところ『宝石』1953年12月号を古書店で探し出すしかないようです。
「胡蝶の行方」は創元推理文庫「大坪砂男全集1立春大吉」で、「ルパン就縛」は扶桑社文庫「古墳殺人事件」で、「クレタ島の花嫁」は講談社文庫「密室殺人大百科〈上〉」で読むことができますが、これらをまとめ、『宝石』初出時の雰囲気を再現するような形で、どこか刊行してもらえないかしら・・・
 ミステリー文学資料館編纂のシリーズを出している、光文社文庫あたりでどうでしょう。
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2018年11月07日

120字の映画館No.02~東宝特撮映画その2 「モスラ」

 監督:本多猪四郎  特技監督:円谷英二 製作:東宝 1961年
 主演:フランキー堺、香川京子、小泉博、ザ・ピーナッツ

爆撃や砲撃を物ともせず、洋上を渡り、ダムを破壊し、街を押し潰す巨大幼虫!へし折った東京タワーに繭を架け、やがて飛び立つ極彩色の巨大蛾!!すべてはさらわれた双子の小美人を取り戻すため―めくるめく破壊のスペクタクル、日本ファンタスティック映画の金字塔!!! 

映画ポスター「モスラ」.jpg


 モスラが、人間に危害を加えようとしたためしはありません。目標物に向かって、ひたすら突き進むだけ。
 進路上に街があったり、人々が暮らしている・・・というのは人間社会の都合。図体がバカでかいからしょうがない、モスラは悪くない―と、幼少時にこの映画を観た私は思いましたね。破壊シーンに恐怖するというより、陶然と見惚れてました。(破壊シーンに慄然とした「世界大戦争」と同じ頃に観ているのに、この違いはなんだろう?)
 特にモスラの幼虫が東京タワーによじ登り、ぐっと反り返ってタワーをへし折るシーンから、糸を吐いて巨大な繭を作り、人間がその繭を熱戦砲で焼き尽くそうするも、かえって羽化を早めたかのように、中から成虫が頭を出し、やがて羽を広げて飛び立っていく・・・この一連のシークエンス。私がこの映画を観たのは6歳ごろだと思うのですが、何度も夢に出てきました。怖いと言うよりも、なぜかしら爽快感を伴う夢でした。
 祖父母の家で養蚕を営んでいたので、「おかいこさま」に似たモスラの幼虫は可愛かったです。

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2018年11月06日

120字の読み物世界No.02~山田風太郎その2 「おんな牢秘抄」

 著者:山田風太郎
 初出:1959年4~12月『週刊実話特報』に連載
 角川文庫「おんな牢秘抄」(角川書店 1984年3月初版)より

吉宗治下の江戸幕府を揺るがしたある史実を背景に、女死刑囚たちの冤罪を晴らすべく、快刀乱麻の推理をめぐらす美少女・姫君お竜!ミステリの趣向と伝奇小説の醍醐味を併せ持つ、異色の捕物帳。読後の清涼感も一級品の大傑作!!

おんな牢秘抄.jpg



 独立したエピソードを通しで読んでいくと、その背後に潜む、より大きなテーマがあぶり出されてくるという、著者お得意の連鎖小説です。
 その昔、古本屋で何気なく贖った東都書房版で初めて読んで、姫君お竜のヒロイン像にたちまち魅了されました。
 上の惹句的紹介文を読んで誤解されるといけないので、「姫君お竜」についてちょっと補足します。
 小説の冒頭に登場する「姫君お竜」は、ひねくれた蓮っ葉の万引き女。彼女がヘマして同心に捕えられるのですが、そのお竜の不幸な境遇に同情し、同心に「許してあげて」と無理なことを命令するのが、大岡越前の娘・霞。
 その霞が「姫君お竜」に成りすまし、彼女が無実と信じる女死刑囚たちの背景を探るため、小伝馬町牢屋敷に潜入捜査する・・・という設定です。
 ですからこの物語で大活躍するのは、大岡越前のじゃじゃ馬姫のほう。推理を働かせるだけでなく、一刀流の使い手でもあり、悪人どもをバッタバッタと薙ぎ倒します。
 戦闘美少女のハシリではないでしょうかね。
 現在は、角川文庫の山田風太郎コレクションの一冊として出ています。(画像は角川文庫旧版 カバー絵:佐伯俊男)
posted by Pendako at 10:27| Comment(0) | 120字の読み物世界 | 更新情報をチェックする
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