2018年11月16日

120字の映画館No.06~トリュフォーその2 「黒衣の花嫁」

 原題:La mariée était en noir
 監督:フランソワ・トリュフォー 製作:フランス 1968年
 出演:ジャンヌ・モロー
 原作:コーネル・ウールリッチ「黒衣の花嫁」

教会で永遠の契りを結んだふたり、近くでふざけ合う男たち―この光景は何を意味するのか?テラスから墜落する男、毒入りの酒で絶命する男、物置で窒息する男・・・その陰にはいつも、黒衣を着た女の姿があった。青白い復讐の炎を内に秘め、花嫁は次の男に微笑みかける!

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 前回とりあげた「暗くなるまでこの恋を」と同じく、ウールリッチ(別名ウィリアム・アイリッシュ)の原作ですね。
 中学の頃、信州の田舎の従兄弟の家で、『家の光』(農家向けの雑誌です)をパラパラめくっていると、この映画の紹介記事が載っていました。「おおウールリッチの映画化か!」と期待が膨らんだのですが、この記事の執筆者が「主演のジャンヌ・モローが、新妻というには、いささかトウが立ちすぎている」と書いていたのが少々気になりました。(なんでこんなことまで覚えているんだろう?)
 とは言いつつ、のちにこの映画を初めて観たのはテレビでだったと思います。日曜映画劇場か月曜ロードショーか、そのあたりは曖昧ですが、原作ほどではないにしろ全篇張り詰めた緊迫感のようなものは感じられて、ミステリ映画として及第点だったと思います。
 話が進むにつれて、次第に復讐の動機が明らかになっていくのは原作と同じです。原作では警察の捜査の進展を描くことによりその過程を示すのですが、映画の方ではフラッシュバックで過去の出来事を断片的に挿入しながら明らかにしていきます。当時の私はその手法がとても斬新に思えました。ただこれは映画初心者の感想で、のちにヒッチコックなどが盛んに使っていた手法だと知りました。特にトリュフォーがヒッチコックの信奉者であり、意図的にオマージュとして、ヒッチコックの手法をなぞる監督であることも。

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 ヒロインについては『家の光』のとおりで、「突然炎のごとく」(1961年)の頃のジャンヌ・モローであればまだしも、復讐の冷たい炎をうちに秘めた、清楚で美貌の花嫁―という原作のイメージとは少しずれた感じでした。
 後年、「殺意の夏」(ジャン・ベッケル監督 仏 1983年)を観たとき、主演のイザベル・アジャーニこそ、もしかして「黒衣の花嫁」にふさわしいのでは、と思ったことがあります。

 なお、トリュフォーについては過去にアップした次の記事もどうぞ。
  「ちょっとひと休み:映画と原作~ヒッチコック その7」


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2018年11月15日

120字の読み物世界No.06~コーネル・ウールリッチその1 「黒衣の花嫁」

 著者:コーネル・ウールリッチ 訳者:稲葉明雄
 原題:The Bride Wore Black(米国1940年)
 ハヤカワ・ミステリ文庫「黒衣の花嫁」(早川書房 1983年8月初版)より

シカゴに旅立ったはずの女は、次の駅で列車を降り、ニューヨークに舞い戻った。ほどなくしてひとり、またひとりと男たちの不審な死が続く。甘く巧妙な手口で男たちを死にいざなう女の目的は?捜査の手をかいくぐり、黒衣の花嫁の、孤独な復讐劇の完遂なるや。

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 コーネル・ウールリッチは学生時代から純文学作家を目指し、幾つかの作品を発表したものの大成することなく、ミステリーやスリラーといった通俗小説に活路を求めて成功した作家です。パルプ雑誌などに夥しい数の短篇を発表したのち、初めて刊行したミステリ長篇がこの「黒衣の花嫁」でした。
 そのあと「黒いカーテン」「黒いアリバイ」「黒い天使」・・・と続いたので「ブラックのウールリッチ」の異名をとった、というようなことが、昔の解説でよく目につきました。
 山本周五郎の「五瓣の椿」が、この作品を換骨奪胎したもの、というのは有名な話。(それと知らずに「五瓣の椿」を読んだとき、大発見したような気になりました)

 この小説には、同じ作者の「幻の女」や「暁の死線」のように、限られた時間内に解決すべき謎、といった要素はなく、強烈なサスペンスは感じられないかもしれません。その代わりに読者は、五里霧中の中から少しずつ、道しるべとなるような灯りを辿って行くスリル感を味わうことになります。
 プロットは極めて単純です。正体を隠した女が5人の標的を順繰りに葬っていく―か弱い女性が男たちそれぞれを、どんな方法を以て死に導くか・・・のエピソードの積み重ねで成り立つ小説です。そしてなぜこの女は、かくも冷徹で非情な殺意を抱くのか―という謎を探る物語です。
 それと並行して各章の後ろに、女の正体と動機を突き止めるべく、警察の捜査活動も描かれています。動機やその背景がはっきり明かされるのは結末ですが、この部分を読むうちに、読者にはうすうすそれが分るようになり、次第にヒロインに感情移入することになります。「どうか捕まらないで、復讐を完遂してくれ・・・」という気持ちが、異様なスリルを呼び起こすのです。

 私が最初に読んだのは、中学の頃のポケミス版。訳者は黒沼健でした。

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 父方の叔母が家に遊びに来たときのこと。みんなで外食したおりに、叔母が「本を買ったげる」と言うので、近くの書店で棚から引っ張り出したのがポケミスの、「黒衣の花嫁」とE・S・ガードナー「重婚した夫」の2冊。
 叔母から「こんな本、やめなさい!」と言われながら、無理して買ってもらった記憶があります。
 確かに中学生が読むには、いずれも少々不穏当な題名でしたね。

 「黒衣の花嫁」の邦題もいいですが、原題(直訳すると「花嫁は黒衣をまとった」)がヒロインの決然とした意志を感じさせて、とても良いです。
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2018年11月13日

120字の読み物世界No.05~山田風太郎 その4 「伊賀の散歩者」

 著者:山田風太郎
 初出:1972年7月『小説現代』 
 「季刊幻想文学第42号 特集:RAMPOMANIA」(アトリエOCTA 1994年10月)より

伊勢・藤堂藩の老藩主が新たに迎えた側妾。その弟、平井歩左衛門が領内を徘徊するのは何故か―?江戸川乱歩の史実上のご先祖様をモデルに、乱歩作品から引用した数々の趣向を絢爛と散りばめた、超絶のパロディ!あなたはいくつわかりましたかと、読者に挑戦する稚気も快!!

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 山田風太郎の項では前回、ホームズのパスティーシュを取り上げたので、今回は江戸川乱歩のパロディです。
 ―厳密に言えば、乱歩の人物像と乱歩の作品のパロディであり、それを忍法帖の枠組みで描くことにより山田風太郎自身の作品のパロディにもなっているという、一筋縄ではいかない作品。
 風太郎をもじった風忍斎という忍者や、のちに日本文芸史上の大変革者となる、伊賀上野のある実在の人物も登場します。
 ここで、作者からの挑戦に応えていきたい誘惑に駆られますが、別の機会に譲りましょう。
 
 作中の平井歩左衛門について触れておきます。
 江戸川乱歩がエドガー・アラン・ポオをもじった筆名というのは有名な話ですが、本名は平井太郎といいます。平井家の家系図を辿ると、伊豆・伊東の百姓、平井十郎右衛門に行きつくそうで、その娘が伊勢の藤堂家に奉公に上がり、その藩主・藤堂高次(伊勢津藩第二代藩主 1602~1676年)の側室になって、揚げ句に次代・高睦を生んで正室となった。この女性には弟・平井友益がおり、姉の口添えで藤堂家に召し抱えられ、乱歩の祖父の代まで藩士として仕えた・・・というようなことを、他の文献による傍証も加えながら乱歩自身が記しています。
「わが夢と真実」という随筆集の中の一篇、「祖先発見記」がそれです。(光文社文庫版『江戸川乱歩全集』第30巻所収)

 山田風太郎は、この姉を「おらん」、弟・友益を「歩左衛門」として「伊賀の散歩者」に登場させているのです。ちなみに「おらん」と「歩左衛門」は「乱歩」の名前を分解した命名でしょう。
 自身の作品集に何度も収録されたほか、多くのアンソロジーにも採られています。ここでは乱歩特集で再録された専門誌『季刊幻想文学』を掲げました。
 乱歩は風太郎の才能を高く買い、風太郎は乱歩を慈父のごとく慕っていました。そんな関係性を彷彿とさせる傑作です。
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2018年11月12日

120字の映画館No.05~トリュフォーその1 「暗くなるまでこの恋を」

 原題:La Sirène du Mississipi
 監督:フランソワ・トリュフォー 製作:フランス 1969年
 出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジャン=ポール・ベルモンド
 原作:ウィリアム・アイリッシュ「暗闇へのワルツ」

写真だけの見合いで結ばれた男女。男は女の美貌に心奪われた。だがそれは仕組まれた罠―女の裏切りが始まる。財産を掠めて女は姿を晦ますも、男は狂おしくその影を追い求めた。妄執の調べにのって、無垢な男と無情な女の踊るワルツは、やがて闇に消えていく・・・

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 先に原作のほうを取り上げたので、今回はダメ男を描くことには定評ある、トリュフォーの映画化作品です。(同じ原作の映画化では2001年のアメリカ映画「ポワゾン」がありますが、私はアンジェリーナ・ジョリーが苦手で未見)
 原題にあるSirèneが、この物語を象徴しています。原題を直訳すれば「ミシシッピー河の人魚号」、ヒロインが文通交際の相手に初めて出会うときに乗ってきた船の名前。
 人魚ではありますが、人魚姫のようなマーメイドではなく、航海する船を美しい歌声でいざない、難破させてしまう海の魔物シレーヌです。
 哀れジャン=ポール・ベルモンドは悪女カトリーヌ・ドヌーヴの虜となり、破滅への道をまっしぐら・・・となるわけです。
 しかし邦題の「暗くなるまでこの恋を」はどうにかならんかったものでしょうか。安っぽい恋愛映画みたいで、タイトル眺めただけでむず痒くなってきます。作品の持つフィルム・ノアール感がちっとも伝わらない。私だったら「ベルモンド=ドヌーヴの偽装結婚にご用心」・・・いや、これではコメディ映画か。

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 学生時代に、名古屋のどこの映画館だったか、オールナイト上映で初見。途中、映写機にかけるフィルムの順番を間違えたようで、わけのわかんないストーリーになってしまいました。(先に原作を読んでいたので、脳内置換できましたが)
 初見のときは気づかなかったのですが、この映画の中には過去の映画作品からの引用やパロディが散りばめられ、トリュフォーの敬愛する映画監督、スタンバーグ、ジャン・ルノワール、ヒッチコックなどへのオマージュとなっています。
 悲痛なテーマの映画ながら、遊び心溢れる作品でもあります。

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2018年11月11日

120字の読み物世界No.04~ウィリアム・アイリッシュその1 「暗闇へのワルツ」

 著者:ウィリアム・アイリッシュ 訳者:高橋豊
 原題:Waltz into Darkness(米国 1947年)
 ハヤカワ・ポケット・ミステリ「暗闇へのワルツ」(早川書房 1970年2月再版)より


男の目の前に現れた女は、写真とはまったくの別人だった!だが彼は、その瞬間恋をした。そのときから彼の人生は、魔性の運命に魅入られていく・・・なんど裏切られても女を恋慕する、男の狂おしいまでの純情!!通信交際を通じて出会った男女の、哀切な破滅の物語。

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 ウィリアム・アイリッシュ(別名コーネル・ウールリッチ)は、代表作「幻の女」が突出した評価を得ています。日本で海外ミステリのオールタイム・ベストを選出すると、必ずひと桁の順位を獲得する人気作。
 反面、その他の諸作(「黒衣の花嫁」や「暁の死線」などを除いて)は、しだいに忘れ去られようとしています。「運命の宝石」「野生の花嫁」「死はわが踊り手」「聖アンセルム923号室」などは半世紀ほど前にハヤカワ・ポケット・ミステリで出たきり、文庫化もされずKindle版も出ていないので、完全に忘却されたに等しいと思われます。(それなりの作品だから、ではありますが・・・)
 小学校以来のファンとして当ブログでは、この作家の昔日の面影を、ほそぼそと書きとめていきたいと思います。

 さて「暗闇へのワルツ」です。
 アイリッシュのミステリに登場するヒロインは、まるで天使のように無垢で純情な女性が多いのですが、「暗闇へのワルツ」は天使の顔をした悪魔―ファムファタルの登場です。
 この作品をミステリの範疇に納めていいものかよく分りません。
 少壮実業家の男が手紙のやりとりだけで結婚を決意した女性と、初めて出会うところから始まります。ところが目の前に現れた女性は、手紙に添えてあった写真とは見違えるような美女だった!
 ―という謎は仕組まれた罠で、それを追求する探偵も登場し、サスペンスフルな駆け引きもあるんですが、解決を見ないままあっさり探偵は殺されちゃいます。
 この部分はあくまでもサブストーリー的な扱いで、主題は「宿命の女」に魅入られた男が破滅の道をまっしぐら・・・というところにあると思われます。
 財産をそっくり横領されても、自分を裏切って逃げ出されても、仕舞いには女のために人を殺めるはめになっても、女のヘタな言い訳や上っ面だけの謝罪に騙される(あるいは騙された自覚を押し殺してしまう)男の哀れさ情けなさ。
 読んでいて「おいおい、いい加減に目覚めろよ」と張り倒したくなるくらいです。
 しかし最後まで純愛を貫いた男の末路には、感動すら覚えたなあ・・・マゾっ気のある男性は必読でしょう。(いえいえ私にはございません)

 中学の頃、このヒロインを同級生になぞらえながら読んだ覚えが・・・性悪だけど男子をみんな惑わせる―なんとなくそんな雰囲気の女子だったので。

posted by Pendako at 09:37| Comment(0) | 120字の読み物世界 | 更新情報をチェックする
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